■「気づいたら、スラムの人の生きることに対する力強さに魅かれていました。コミュニティは、その住民自身が創っていくものなんですね」
東アフリカ子供救援センター代表/菊本照子さん
スラムの人々の生きることに必死な姿
「極貧層の人の暮らし」がどんなものか想像できるだろうか。売春やレイプ、リンチなどは日常茶飯事。トイレすら整備されず、ビニール袋詰めの排泄物が空を飛び交う。それがスラムの「日常」だ。ケニアの首都ナイロビでは人口240万人のうち55%の人がスラムの住人であり、その55%が居住可能地域の5%に住んでいる。
ひと握りの富裕層と中間層の賄賂強要や搾取が、公然とまかり通る社会システム。這い上がろうとすることさえ無駄だと思わずにはいられないスラムの住人は、今日という日を暮らすためだけに生きている。
それでも「スラムが好き」と菊本照子さんはさらりと、穏やかにいい切る。
「自分がこんな活動をするようになるとは思いませんでした。外の世界を見たいという若い好奇心だけで、特別な理由なんてなかったんです。でも私がスラムで見たのは生きるために雨露をしのぐ段ボールハウスを作る人や、勉強がしたいと地面に文字を書く子どもの必死に生きる姿でした。スラムの人の生きることに対する力強さに魅かれて、教育畑出身として、何かしたいと思ったのが最初です」。
スラムに水道を整備する、段ボールハウスをトタン板の家に変えるなど、人間らしい生活を営むためのごく初歩的なことからはじまり、孤児院、職業訓練校の開設、スラムコミュニティの拠点づくりなど、将来的には支援がなくてもスラムの住人自身が、理想のコミュニティを創っていける方法を一緒に考えていくことに、菊本さんたちは重点を置いてきた。
有機農法の指導者としてケニア国内を駆け回る青年、養子として日本に渡り、自分の給料から孤児院に寄付をしてくれるようになった青年。家庭を築き、おみやげを手に家族で孤児院を訪ねてくる卒園生たち。菊本さんたちの活動は、長い長い時間をかけて着実に実を結んでいる。
「人と人」の対等な関係が不可欠
貧しいからなんとかしてあげたいという慈善や、一時的な金銭や物資による施しは、スラムの人々の依存心を助長する結果になりかねない。それよりも彼らの内にあるものに問いかけて、一緒に考えることが自立の一歩。音楽が好きな子どもには薬物のかわりにダンスを、人と話すのが得意な青年には交渉の仕方を。小さなことでも、自分がコミュニティのために何かができる存在だという、人間の尊厳を知ってもらうことが重要だと菊本さんは考える。
「その日暮らしのスラムで育ち、チャンスがあることすら知らなかった人々の価値観を変えるのは簡単ではありません。職業訓練や支援はあくまでもツール。人と人との関わり合いの中で伝えたい何かがなければ活動は続きません。コミュニティはこの先もずっと続いていくものですから、コミュニティを創っていくのは、住人自身でなければ意味がない。人はどこまでも伸びていく可能性があると信じて、私たちは黒子に徹して、ちょっと背中を押してあげるだけ」。
ボランティアや支援活動を継続するうえで、海外も日本も共通するものがある。「支援する側、される側、人としてどちらが優れているということではなく、障がいを一緒に乗り越える姿勢は同じでしょう」。
ケニアで25年間暮らしても、今も夢に見るという菊本さんの心の原風景は、出身地島根の里山や、戦後の足りないものの中でやりくりしていたころの暮らしだという。「マトマイニ・チルドレンズ・ホーム」。スワヒリ語で「希望」と名付けられた孤児院に、菊本さんは、誰もが幸せになろうと一生懸命もがいていた時代の原風景を重ねているのかもしれない。
profile:きくもとてるこ 島根県出身。中学教諭、会社勤めを経て1981年にケニアに渡る。
翌年、東アフリカ子供救援センターを設立、1984年にはケニア政府から社会福祉団体として法人許可、ケニアのNGO(非政府間機構)として活動がはじまる。1987年、ナイロビ近郊に孤児院を開設。1987年に「マトマイニ・チルドレンズ・ホーム(希望の家)」を設立。
現在、ケニア全土にトイレ・水道の設備など、活躍の場を広げる。
優れた文学小説、並びに文化活動に取り組んだ人物や団体に贈賞される吉川英治賞を今年受賞した。
3,000円の支援が子ども1人の「1か月分の生活」を支える。
東アフリカ子供救援センターは、ケニア・ナイロビ郊外でエイズ孤児やストリートチルドレンのための孤児院の運営、スラム住民のコミュニティ活性化の協力、青少年やママたちのグループ結成、ネットワーク作りなどの活動を通して、貧困層の人々の自立を支援している。職業訓練工房では、農林業、フェルト工芸のコースを短期コースやワークショップの形で開設し、一時的な援助ではなく、持続的に自立した生活をしていけるよう地域住民に広く門戸を開いている。
有機農法で作られた日本野菜や雑貨の販売収入は、活動を支えるうえでの重要な資金源。これらの地道な活動はJICAの開発パートナー事業として「貧困層の生活改善プロジェクト」へと広がった。プロジェクトが終了した今も、スラム住民による自主活動が継続している。活動支援のための寄付金も広く協力を募っている。
郵便振替:00900-1-41598
東アフリカ子供救援センター日本事務局
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