夫の部屋かつ寝室は、我が家の中では一番、夏は涼しく冬は温かい部屋です。そして夫に観やすいように大きなテレビも備えてあります。
それでいつしか、この部屋が私たち夫婦二人のくつろぐ茶の間にもなっているのです。
そのくつろぎの部屋の、電気の照明をつけたり消したりするひもが切れたのは、何月だったかは忘れましたが昨年のことです。足がおぼつかなくなっている夫がふらついた拍子に、ひもにつかまったのでした。
みると、ひもの先が、わずかに器具の外側に出ています。それに別のひもをつなげばいいわけです。簡単につなげると思ったですが、これが大変難航しました。短かすぎて、きちんとうまくつなげないのです。椅子にあがり、何十分も四苦八苦してやっとつなぎました。
一応それで問題は解決したのですが、昨年の暮れの押し迫った日に、また夫がふらついてひもにつかまり、今度は器具の中で切れてしまい、ひもをひっぱることが出来なくなったのです。つまり明かりをつけられなくなったのです。
仕方がないので、電気スタンドを、二箇所のすみにおいてしのぐことにしました。ちょっと暗めですが、我慢できないというほどでもない明るさがありました。
ところが、先月、明るいほうのスタンドを猫に倒され、それっきりつかなくなってしまいました。どうも本体が壊れてしまったようです。
一本だけのしかも暗めのスタンドの照明では、もお暗い! 戦時中、明かりが外にもれないように、電気を布で覆っていたぐらいの暗さです。(私はその記憶がある年代なのでして・・・)
そこで私は、なんとかせねばと、薄暗い中、椅子にのって、懐中電灯を片手に、照明器具の解体をはじめました。器具のふた状の部分をはずして、ひもをつける根元に別のひもをつけられないかと思ったのです。
椅子は低いので、私は上を見上げ、手を伸ばして作業せねばなりませぬ。左手に懐中電灯を持って、ドライバーでねじをとる右手を照らしながらやるのですが、とてもやりにくく、顔に汗が滲むくらいです。しかも十数年たっているねじはなかなかとれず、だんだん癇癪をおこしたくなるほど苦痛になってきました。照明器具の中って、線は何本も渦巻いているし、なにやらゴテゴテしてひもの根元がどれかわかりにくいのでした。(トホホ)
それでもやっと、ひもが、わずか二センチの長さで残っているのを見つけました。でもとてもとてもそれに別のひもをくくりつけるなどはできません。指でつまんでひっぱってみました。すると、照明がついたのです。
「やー! 快挙!」と私は自分の労を誇りに思うくらいほっとしました。
器具は解体したままなので、丸い電球が傾いてぶらさがってる、というみっともない状態でしたが、電気をつけたり消したりする時はそのつど椅子にあがり、手探りで二センチのひもをつまんで引っ張ることにしました。
見掛けはほんとに無様ですし、いちいち厄介でしたが、明るきゃいいのよ!
この状態で傘がかぶさっていた。いくら明るきゃいいといっても、改めてみるとスゴイ! 貝が口をあけてるように器具がパカ開いているとこから手を入れてひもをさぐり、引っ張っていた。・・・電気やさんに来て貰えばよかったのに、という声が聞こえそう。(汗)
ところが、この三日前に、ヒゲキが再び襲いました。明かりの命綱たる二センチのひもが、あるべきところからなくなっていたのです。つまり、根元から切れて床に落ちていたのです。(もう老齢になっていたのでした。・・・ワタクシもそんなような・・・)
そこで私は、その根元に新たなひもをつけるべく、椅子にあがり、顔を上向け、片手に懐中電灯を持ち、果敢に孤軍奮闘しました。でもついに、それは素人の私にゃ無理、と悟りました。
・・・と、ふと照明器具を支えている天井部分に目をあて、「あれ? これって、天井についている差し込み口に差し込まれているのでは?」と気づいたのです。
椅子では手が届かないので、物置から脚立を持ってきて、天井部分の差し込み部分らしいところを、ぐいぐいとまわしますと、カチリと音がし、それをひっぱると、照明器具がとれたのです。
そう、最初からこうすれば、ひもをつなげるにしろ、器具のふたをはずすにしろ、下に置いてたやすくできたわけです。(ニャンニャロメ!)
それから急いで二階に脚立をもって上がり、二階の部屋の照明器具をはずし、それを階下におろし(この作業も結構タイヘン)、我らの茶の間の天井に差し込んだ(これが重くて手がブルブル震えてなかなか差し込めない! ホント、おおごとでした)のです。
艱難辛苦の甲斐あって、久々に茶の間に通常の明かりが満ちました。
一階の茶の間についた照明。すっかりひもトラウマになった私、ひもを何本もつけた。どれかが切れてもどれかが残るように、と。
二階は今、このような差し込み口だけになっている。それにしても汚い天井になっている。
「わー! やったー! 天井に差し込み口があったのを見つけてよかった〜!」と、私は、昨年からのこの顛末をそばで見ていたはずだけど、何もわからないのだろう夫に、得意そうに言いました。
すると、夫はすまして言ったのです。
「ぼく、知ってたヨ」
「ナヌーッ!」この時の私の形相はさぞかし悪鬼のごとくであったことでしょう。
リポーターの独言
介護者たる私のこのようなエレジーは、掃いて捨てるほどございます。皆様、認知症は何もわからなくなってる、とゆめゆめ思い込みなさいませんように・・・。
ひょっとしたら、認知症になっている夫を介護者というより、まるで支配者のごとくにエラソーに振舞っているところのある私への、アンチテーゼであったやらも知れぬ、と思わなくもないのでありますが・・・まずは一見落着のエレジーでした。
これ、爆笑版とした方がよかったかしらん?
(佐々木和恵)