真春さんは、動物陶芸作家の中村勇の作品を何よりも愛していらっしゃいます。それは、作品そものが、息子、中村勇の命だと思うからです。
いらっしゃい!
ギャラリーの玄関に訪れる人を出迎えるために並んでいる動物たちと水槽の生き物たち。(写真をクリックすると大きく見れます)
ようこそ!
玄関を入ると、真春さんと猫ちゃんがお出迎え
ずうっと苦しかった
勇さんが落ち着くことが出来ず、小学校も行かないことになってから、ある時期までずうっと苦しかったと真春さんは語ります。
「学校でも家の生活の中でも、この子は一生懸命なのにうまくいかない。一生懸命になればなるほど、友達とも先生とも他の人たちとも交流ができにくい。でも、いつか直る、直してみせる、という気持ちで、病院を回ったり、教育関係や福祉関係の人たちを頼り、指示を仰ぎ、頑張って頑張っていました。頑張りの全ては、いつかは必ず直って、息子が人間関係を楽に築いて、楽しさを感じてくれるようになる、という願いに繋がっていました。」
真春さんがこの時期苦しかったのは、自分が大変ということではなく、息子が、人の言葉に躓き、傷つき、人を求めているのに、うまく交流ができなくて、尚苦しむ・・・このことが可哀想で辛くてならなかったと言います。
自らが癌になる
その出口のないように見えた息子を思う重さから抜け出のは、真春さんが、癌になった時だということです。
本来なら、自分の生命が危ういかも知れないという状況を迎えれば、苦しみは極限に達すると思いますが、この時にやっと、息子を心配して身体も心もがんじがらめになっていた感じが消えたと言うのです。
「息子には息子の運命がある。その運命はいかな親でも変えようがない。癌になった今、自分の人生も考えよう・・・と思ったんですね。そう思ってから、肩が軽くなってきたんですよ。それは、勇の特性を本当に受け入れた、ということでもあったんですね。癌になって、かえって全部を受け入れることが出来たのです。」
真春さんはそれから歌を歌ったり、好きな裁縫をやる意欲も出てきたというのです。
そして、真春さんをより救ったのが、何をやっても長続きができなかった勇さんが、粘土をこね、炊飯器で焼いて作る陶芸を覚え、これだけは、何があっても投げることがなかったことだそうです。
出口が開き、世界が見えた
「勇は、言葉では言いませんが、動物園の動物にも、家の猫にも、そこに生命を感じていた気がします。
はじめて、人に教えてもらって、炊飯器で作った動物、猫だったんですけど、この猫ができた時の、勇の歓喜に満ちた表情は、それは素晴らしかったです。
「動物を陶芸で作ることがあれば、勇は生きられる! 生き物の生命を感じる魂が、勇を生かしてくれる!」
真春さんは、このことを実感した時、自由になられたに違いありません。
まさに、出口が開いて、ひとつの世界が開けたといえるでしょう。
それは勇さんの世界であるとともに、真春さんの新たな世界でもあるのでしょう。
数年前から、勇さんは、一年に一回は個展を開き、数々の賞も受けられています。真春さんも勇さんも、自らをそのように特には言われませんが、堂々たる陶芸作家なのです。
真春さんは言います。
「勇は私の誇りです。あの子の作品もあの子自身の魂も・・・。」
リポーターのつたない腕で撮った”中村勇の世界”
リポーターの独言
真春さんは、パソコンや写真を撮ることを趣味とされていますが、それらは全部、勇さんの陶芸を生かすためのものだということです。
つまり、パソコンの中で、自分の撮った風景に、勇さんの動物を合成し、童話をつけ、絵本にするなどをしていらっしゃるのです。
この絵本は、別の記事としてご紹介したいと思います。
では最後に、作品に打ち込む勇さんをご紹介します。この写真は真春さんからお借りしました。
(佐々木 和恵)