書道家の恵美美江子さんは、数年前に人生を共に歩んでこられたパートナーを病気で亡くされ、以後、老人ホームや障害者施設で、習字を教えたり、歌をともに歌う活動をされています。
2006年7月11日、埼玉県寄居町にある知的障害者授産施設『はぐくみ園』に、習字の稽古に行かれる恵美さんに同行させていただきました。
テーマは”川”ですよ
「今日は、”川”をテーマに、字を書きましょう。”川”って聞いて何を思い浮かべるかな? 自分が思い浮かべたことを、字にしてみましょう♪」
「えー、川?」「う〜ん。」「わかった!」などの声がとびかう。
「魚」、「水」、「釣り」と出てくる声に、「そうそう、じゃそれ書いてみようか。」「いいわね! それを頭に浮かべて書いてみて。そうすると、そういう字になるかも。」と頷いで、その人その人の筆先をのぞいていかれます。
考えあぐねている人には、隣りについて、二人だけの会話を交わします。その後、その人の筆が動いて、『海』という字が表われると、「海! いいわね〜、川と海はつながっているものね。」と恵美さんの明るい声に、その人は笑顔を見せます。
墨の色が違うでしょう?
「いつもは濃いけど今日は淡いですね。硯から墨の匂いも香るでしょ。松炯墨という香る墨なのよ。」
この日の墨の色は、淡色でした。恵美さんの説明を待たずして、「あ、墨の色がいつもより薄い!」と言った人がいます。
その声を受け止めて、恵美さんは、「そうなのよ、いつもは墨汁だかたもっと濃い黒色でしたね。色って、同じ色でも、濃いものや薄いものがあるでしょ。習字を書く墨もそうなの。書く字によって、墨の色を変えると面白いと思うの。」と話していきます。
「川は透き通っているから、薄いのが合うのか。」
「そうなのよ! そう思って今日は薄い墨にしたの。」
と恵美さんは答えます。
墨からいい匂いがすることに気づいた利用者の人もいて、そうすると、恵美さんはとても喜び、そのことでわっと明るく盛り上がっていくのです。
作業の合間に習字を楽しむ
はぐくみ園は授産施設だから、利用者の方々は、それぞれの作業があります。だから、習字がはじまる時間に間に合わない人もいます。作業が一段落して、後から参加する人もいます。遅れてきた人は、急いで椅子につき、待ちかねていたように筆を手にする人もいますが、中には、入り口で、(どうしようかなぁ。)という風情で立っている人もいます。
恵美さんは、「さぁ、いらっしゃい。待ってたのよ。」とすぐに声をかけ腕を伸ばして招きます。その人が表情を和らげて席につき、やがてその人は、”大河”という大きな字を書きました。恵美さんが、「スゴイ!」と感歎の声をあげました。
いかにも伸びやかな心地のよい時間が流れていくのを感じました。
恵美さんに活動のきっかけを聞く
「夫が亡くなる前、病院や介護施設にお世話になったでしょ。そういう時、いつも気になったのは、入院してる人や、入所者の方が暗く、心を閉ざしている、という感じを受けたこと。そりゃあ、病気で苦痛があったり、身体が不自由だったりしたら、暗いのは当然なのかもしれないのだけど、気になって仕方なかったのよ。
うちの主人がお世話になっていたところで、歌を歌ってみたの。誰もが知ってる童謡のような歌。そしたら、入所の方が、ぱあっと顔を明るくして、一緒に歌う人がいたの。このことが忘れられなかった。それで、主人が他界してからずうっと、何かできないかと考えてた。
そして、三年前から、歌を一緒に歌わしてもらうようになって、いつの間にか習字もはじめたの。歌を歌うこと、字を書くことは、心を開くことなの。・・・でも、それは私が教える、ということではないの。一緒に楽しむ、それだけなのよ。」
最後に恵美さんは、しみじみとした表情でこのように言われました。
「皆さんと過ごす数時間は、他の仕事にはない充実感と感謝の気持ちをいただけるとても有意義な時間。園生の方も指導の先生方も礼儀正しくて優しくて、心が洗われるのね。」
もし、一緒にやりたい方がいらしたら
恵美さんは、こうした思いを理解して、一緒にやってくれる人がいたら嬉しい、と言われます。できればアコーディオンが弾ける人に一緒にやって欲しいそうです。
ただ無償のボランティアなので、交通費なども出せないから、できるだけ近くの人の方がお互いの負担が少なくていいのではないかということです。【恵美さんの住まいは埼玉県熊谷近郊】
リポーターの独言
恵美さんの笑顔の温かさ、常にみんなに気持ちと声がかけられるような気配りの深さが伝わり、その場が本当に明るく伸びやかになっていくのを感じました。
いい時間を共有させていただき、本当に楽しい一日でした。
恵美さん、はぐくみ園の皆様、ありがとうございました。
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この訪問記は、2に園の歩みや具体的な活動、3で施設長の森先生、主任支援員の橋本先生のお話しをご紹介しています♪
(佐々木 和恵)