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知的障害者通所授産施設『はぐくみ園』3<森正子施設長と橋本誠一さんに聞く>

2006-07-11 23:00:37

“福祉にロマンを”
これは『はぐくみ園』の森正子施設長が、高等学校の教師を経て福祉活動に身を投じられて後、日々切に感じる思いだそうです。
「ロマンというと抽象的で、福祉とは結びつかないですが?」とぶしつけに問い直しますと、「障害を負ってる人たちの限りない可能性を引き出すこと、またその人を含めた世の中がより生き易くなるために、“ロマン”を抱くことは大切なのです。」と施設長は大らかな笑顔で答えられ、傍で主任支援員の橋本誠一さんも、当然という笑顔で頷かれました。
そのお二人にお話を伺いました。


森施設長に聞く
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”はぐくむ”に寄せる思い
知的障害授産施設『はぐくみ園』『第二はぐくみ園』は、福祉法人『はぐくむ会』が運営しています。いずれも“はぐくむ”という名前ですが、私はこの言葉に、特別な思いと意味を持っているのです。

羽ぐくむ
 
   旅人の宿りせむ野に霜降らば
           わが子羽ぐくの天の鶴群(たづむら)

                  万葉集よりー遣唐使随員の母


この羽ぐくむは、遣唐使の随員として選ばれ、遠い唐の国まで旅立たなければならなくなった息子の無事を祈った母の歌です。
旅の途中には外敵や飢え、寒さなど辛いことがたくさんあることでしょう。為す術を知らない母としては、ただ空を飛ぶ鶴の群れにさえ、その大きな暖かい羽でかばい守ってやってほしいと祈るばかり・・・そんな心情を歌にしたものです。

育む
この育むは、生命を持つものみな、その身に、“育つ要素”を持っていることを信じ、その育ちの要素が、うまく発芽し、伸びていけるよう、周りで水をやったり、陽の当るところに出したり、肥料を施したりするのと同様に、子供の育ちを支えていく、という意味です。
最近、”羽ぐくむ”と”育む”どちらの意味も、“子育て”から少しづつ忘れられてきているような気が致します。
『はぐくむ会』『はぐくみ園』は、その大切な意味を、高齢者や障害をもつ人たちの自立を目指して、大切にしているところです。


主任支援員 橋本誠一さんに聞く
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娘が安心して生きれる環境をつくりたいんですよ
橋本さんは、この仕事に就かれた理由をこのように答えられました。
「お嬢さんが、安心して生きれる環境をつくりたいからこの仕事に?」
問い直しますと、「娘が自閉症なのですよ。」と穏やかな微笑を浮かべて再び答えられました。

橋本さんは、国立大学の理系を出られて後、ある企業の技術者として働き、その後技術サービスとして営業を受け持つサラリーマンだったといいます。やがて結婚し、娘さんに恵まれ、幸せな生活を営んでいました。文字通り順風満帆だったそうです。
娘さんが、四歳になられた頃です。「何かおかしい・・・。」と感じるようになったそうです。
娘さんの様子が、他の同年齢の子供と様子が違う。個性や性格の違い、というものと違う違和感。
思い切って病院へ行き診察を受けました。
「自閉的な傾向があります。」と診断されました。

自閉症と診断され
しばらくは、子供さんは奥さんにまかせ、忙しいサラリーマン生活を続けます。だが次第に、自閉症の子供さんを奥さんだけにまかせておくのはよくない、奥さんの負担が大き過ぎる、と感じるようになります。
その頃、奥さんは、自閉症という言葉を聞き、高校時代の担任だった先生が、「はぐくむ」という本を出されていたのを思い出し、実家から引っ張り出して読み返すのです。そして、「まるで、うちの娘のことを書いているようだ。」とため息をつかれていたそうです。
奥さんは、「はぐくむ」を書かれた昔の担任の先生が、教師は辞められ、福祉の仕事に取り組んでおられるのを思い出し、娘さんの相談をするようになりました。
この先生が、森正子施設長です。
橋本さんも、森施設長の著書、『はぐくむ』を読むようになりました。
そして、著者の障害を持った人たちへの愛情や考え方が、ピンと心に響き惹かれるものがあり、2000年、はぐくみ園に職員の欠員ができたのを機に、会社を辞め、この仕事に飛び込んだのでした。

妻を心配する
私は、「それまで打ち込んでこられたお仕事を辞められた時というのは、人生の転換を余儀なくされたわけで、深刻なお気持ちだったでしょう。」と訊きました。
「いえ、子供がかなり重い自閉症だと知った時の衝撃に比べたら、それほどではありませんでしたよ。」
橋本さんの表情にはこの時、少しだけ動揺が走ったように感じました。だがすぐに、穏やかな微笑を浮かべて、「まだまだ勉強中ですが、娘や障害をもった人たちが、安心して生き、暮らしていける環境をつくれるようになりたいと思っているんです。」とさっぱりとした表情で言われました。
この取材の後日に、私が、”動揺された”と感じたそれは、娘さんが自閉症とわかった当時、『妻は大丈夫か』と心配でならなかった、そのことを思い出されたのだと言います。
<森先生の著書>
森正子著 「はぐくむ」1.2
発行者 市毛研一郎
発行所 (株)ぶどう社
東京都千代田区神田神保町2−10−407
電話 03−3234−1450

はぐくみえんのホームページはこちらです。

リポーターの独言
高校の教師をされていた森先生が、福祉に献身的に関わられるようになったのは、やはり子供さんが自閉症であったからだという。
はからずもお二人に、ご自身の痛みまで明かしていただくことになった。
だが私はそれを後悔していない。ご自身の痛みを糧に、”いい環境、いい社会にしたい”と願い努力していく人の爽やかさ、確かさから、大きなものを教えられたのです。
帰り道私は、しみじみと思いました。森施設長が、”福祉はロマン”と言われるのは、障害者も誰もその子その子らしく生きてほしいという願い、祈りのようなことかも知れないと。

(佐々木 和恵)

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