pagetop

リポーターブログトップ > 記事詳細

碓氷峠にて

2007-06-30 11:18:20

meganebashi15.jpg

先週、新緑の美しい群馬県碓氷峠に行ってきました。鳥と虫の声が山全体に木霊し、まるでその声に迎えられながら山の中を走っているようでした。途中、廃止になった碓氷越えの鉄道(碓氷線)のうち、明治26年から昭和38年まで使われた旧線跡の一部が遊歩道として開放されている碓氷峠の名所、めがね橋で車を止め、煉瓦作りの古いトンネルの中を歩いて碓氷湖まで往復しました。短いトンネルがいくつかつながっているので、トンネルの先は強い日差しに緑がいっそう濃く映え、空気も淀むことなく通り抜けています。

この辺りは養蚕が盛んだったところで、富岡製糸工場もすぐ近くにあります。きっと生糸が運ばれたんだろうな・・しかしそれにしても立派な鉄道・・・ボランティアの説明員さんがいらっしゃったので、素朴な質問をしました。「こんな山の中、傾斜がきついところに、なぜこんなに立派な鉄道ができたのですか?」
そんな質問にボランティアの方は嬉しそうに説明してくださいました。
tonnel15.jpg

碓氷峠は約11kmの距離に553メートルの標高差があるため、古くから名だたる鉄道の難所として知られていましたが、明治政府は軍事目的のため、それまでに開通していた直江津-軽井沢線を延長させるべく碓氷峠超えのトンネルの完成を急務としていたそうです。そのため、イギリス人を建築師長に迎え、24時間フルの突貫工事で明治24年着工、500名以上の殉職者を出す難工事の末、明治26年開通しました。

トンネルの連続による煙の問題から日本初の電気機関車が登場したのもこの路線でしたが、長野行き新幹線の開通にともないこの路線は1997年に廃止され、その後、この煉瓦の碓氷峠越えのトンネルは荒れたままになっていましたが、1993年に近代化遺産として国重要文化財に指定されたことで整備が整い、遊歩道のとして観光バスで訪れる観光地となりました。

そしてもう一つのトンネル完成の目的は、やはり当時主要な輸出品だった生糸を港まで運ぶのに使われたそうです。このとき運ばれた生糸は、女工哀史時代のものとは違い、近代化された富岡製糸工場で紡がれた生糸でした。
富岡製糸工場http://www2.city.tomioka.lg.jp/worldheritage/index.shtmlが出来た時の話も聞かせてくださいました。

近代化される前の製糸工場で働く女工さん達は、「ああ野麦峠」の女工哀史にあるような、厳しい労働条件のもと、貧しい農村部の10代そこそこの女の子達がなかば身売りのように働きに出されました。けなげに懸命に紡がれた生糸でしたが、輸出の急増に伴い品質が低下し、海外での信用がなくなってしまいました。

明治政府は生糸の輸出により富国強兵の資金を得る必要があったため、「生糸の輸出振興と品質向上」を主な政策の一つとし、政府の命運をかけて、フランス人の技術者を招き、官営の富岡製糸工場を建設しました。着工は明治4年、完成は翌年だったそうです。工場の規模からいってこのように早急に工場が出来上がったのは、碓氷トンネルもそうでしたが、いかに政府が富国強兵と殖産興業に力を入れ、急務としていたかが窺えます。

近代的な製糸技術をフランス人による技術指導のもとで学ぼうとしていたとき、問題がおきました。女工さんを集めることができなかったのです。ワインを飲むフランス人の技術者を見て、当時の日本人は「血を飲む人達だ」と思い、生き血を採られるとの噂が広まったのです。そこで明治政府の大事業であるこの工場の総責任者であった工場長は、当時14歳の自分の娘を第1号の伝習工女にさせ、安全であることを知らしめました。

彼女の決断は、近隣に伝え渡り、感銘を受けた地元の女性たちは、連れ立って次々と伝習工女に志願し始めたとのことです。この「伝習工女」とは、技術の伝習を行うフランス人教婦から最先端の技術を学び、研修期間を終え帰郷すると、その技術を地元に伝習する指導者となるいわばパイオニアの女性達でした。集まった伝習工女は、士族など地方の名家の子女が多数を占めており、なかには、公家・華族の子女までいたとのことです。また、工場での暮らしは、寄宿舎に入り、日曜日は休日とし、労働条件にも配慮され、たいへん豊かで規律規範の正しいものだったそうです。

現在日本のNGOがアジアやアフリカに行き、現地で農業や布製品の品質向上の技術指導を行っていますが、伝授する日本の技術者たちも初めはやはり、遠巻きにながめられ、信用を得るまでに時間がかかるとのことです。日本も技術を伝達してもらっていた当時は同じだったんだな・・・と、ワインの噂に驚く当時の人々にいっとき思いを馳せました。  (鈴木由利子)

この記事のURLコメント(2)

Posted by すずき ゆりこ at 2007-07-01 20:04:45

ならいさん、ありがとうございます。実際ここのトンネルの遊歩道はとても気持ちがよかったです。

Posted by ならい at 2007-07-01 10:07:10

鈴木さん、おはようございます。
記事に感銘を受けましたが、写真の素晴らしさにも感動しました。

名前
メール
URL
コメント

▲このページの上へ戻る