上の写真は、「障がい者だから・・・とパソコンの利用を諦めているのは、親のほう」と、おっしゃる、神奈川県大和市パソコン・コミュニケーション・アシスト ピコピコ代表の渡辺さん。7月号「のんびる」の取材で、障がい者のためのパソコン教室が行われている大和市内の作業所に見学に行ったときと、その後の報告です。
渡辺さんは、「諦めてほしくないんです。障がい者の方の可能性は無限大です。その可能性が見えるから、支援するメンバーのモチベーションが維持できるのです。もちろん、個人の特性・個性に応じた支援・コミュニケーションが重要な鍵になりますが、実際にパソコンを知るようになると、彼らは集中力をもって取り組みますし、一生懸命なので、とにかく応援したい気持でいっぱいになるんですよ」と、おっしゃる。
その渡辺さんの言葉に隣でうなずくのは、子育てが一段落して、現在、障がい者対象パソコン講師をめざし、ボランティア研修中のO さん(30代後半女性)。「こういう場所が有ることを障がい者の方の親たちにもっと知ってもらいたいです。私が今ここで教えているのは、渡辺さんの丁寧な指導と、『障がい者の方達に、パソコンを通して世界を広げてほしい』という渡辺さんの熱い思いに惚れているからなんです」」と、学習者の特性や好み、キャラクターに合わせて傍で淡々とフォローしておられるO さんもなかなかの情熱家です。
渡辺さんは、4人の娘さん(一番下が4歳)とご主人とのご家庭はもちろん、スタッフを大切にしながら、本職の教育・研修講師のかたわら、障がい者福祉施設での「パソコン学習会」、障がい者・高齢者(一般のかたも含む)のための「バリアフリーパソコンクラブ」、市民育成の「パソコン講師(インストラクター)・指導者養成」事業の主催などに駆け回る毎日。
この日の見学は、いくつかの活動の内のひとつ、「パソコン笑福会」−障がい者福祉施設での「パソコン学習会」の活動でした。この「学習会」は、福祉施設作業所3カ所に出張しての指導ですが、1カ所につき、1人15分ずつの個人レッスンでおよそ2時間、2台のパソコンを使って最大15〜16人が学習します。指導者は2〜3人、障がいに関しては、知的障がいを持つ方、身体の障がい、聾唖の方など。現在3カ所で学習者は30名ほどとのことです。
Oさん同様、指導者養成講座を受けて終了後、障がい者対象パソコン講師をめざし、ボランティア研修中の男性、Wさん(60 代男性)は、退職後ボーとしていた時にパソコンでも学ぼうと指導者養成講座に参加。「今こうして障がい者の方のパソコン指導に関わるようになってから、サラリーマンをしていたときより忙しく、ずっとやりがいがあって充実していますよ」とおっしゃる。また、「気が短かかったけれど、このボランティアを始めてからコントロールできるようになったですよ」とおっしゃいますが、学習者一人につき15分のマンツーマン、その15分をどのように充実してパソコンに触れてもらえるかと、準備にも心配りが行き届いていました。短気だったとはお見受けできませんでした。
この日の一応の課題は、名刺をつくることでした。12名が参加。名刺作りソフトは立ち上がっている状態で、あらかじめ講師がそのソフトのフォーマットで完成させ拡大プリントされた名刺を手本とし、それを見て同じものをフォーマットに入力していく作業。まず、この作業をしたいかどうかを尋ねてからとりかかります。
15分の持ち時間、どう使うかは皆異なります。前半の6〜7分で、マウスの動かし方クリックの仕方、画面の文字の認識などをゲームでおさらいしてから名刺に取りかかる人、ゲームなしで15分きっちり名刺づくりをする人、「ゲームだけをする!」と言って名刺はしない人、「ファンの歌手のアルバム名をネットで検索したい」といって検索して名刺は作らなかった人。電車が好きな人はお気に入りの電車の写真をウェブサイトからダウンロード、サイズを拡大して印刷して大満足。ワードでひたすら文字を打ちたい人は、童謡の歌詞を、漢字変換もすでに学習済み。ブログをかきたい人、施設で暮らしている人で母親にメールを送りたい人。
さまざまですが、驚くのは、みんなが15分という短い時間をきっちり充実させ、得意げに満足してにこやかに終了することです。みんな、とってもこの時間が楽しみな様子が窺えます。このように短時間で皆さんに満足して学習してもらえるには、信頼関係や準備、スキルなどの積み重ねがあってこそ。「かれらの可能性は無限大、だからやっていて楽しいんです!」という渡辺さんのお言葉が、全エネルギーを集中してパソコンに向き合い、きちんと学ぼうとするかれらの姿を見ても分かりました。
障がい者の「パソコン学習会」の将来の展望としては、希望者に応え、もっと長い時間教えたい。個人レッスンではなく、グループレッスンでよりたくさんの人を長い時間教えたいとのこと。その取り組みは都内で他の組織によりすでに始まっているとのことです。
それにはもっと多くのプロレベルの講師が必要です。渡辺さんはそのための講師養成に力をそそいでいます。WさんもOさんも指導者養成講習では、パソコンを一から学んだとのことです。
ここでいうプロレベルとは、教えるに当たっての充分なスキルが有ることはもちろんのこと、障がい者の方々のレベルと特質に合わせて、健常者を指導する以上に柔軟な姿勢と心の優しさ、気長さを持ち合わせていること。そして「教えてやる」にならない心の持ち方などが問われるとのことです。教えるスキルを磨く以上に、教える側の人格を磨く場所にもなりそうです。
養成講座からフォローアップ講座、そして携帯電話講座で講師デビューした方が、今年末にはPC入門講座(障碍者対象)のメイン講師としてデビューする研修がスタートするとのこと。準備は着々進んでいるようです。このようすは渡辺さんのブログで見られます。
http://blog.pico-pico.org/?month=200709
今後の全体的な展望としては、市民の力で市民の支援をする仕組みを創り、すべての人が社会参加できる地域を作ることだそうです。そのバイタリティにも圧倒されますが、渡辺さんのストレートで力強い、しかも女性らしいやさしさが、この組織の、学習者にとっての、そして地域にとっても、更に大きな原動力になっていくのでは・・・と感じました。 (鈴木由利子)