今明野の森の朝はどんなだろう。朝霧がたちこめているかしら?小鳥達の朝早くからの交し合うさえずりはどんなに賑やかだろう・・・。
山梨県北杜市明野町の「森のパン屋アリコヴェール」を思い出だすとき、あの木々たちに囲まれた小屋の朝の空気が胸に流れ込んで来るような感覚を覚えます。

アリコヴェールの外観
5月30日のお昼ごろ取材に行ったのですが、そんな時間でも、朝のさわやかな空気がまだ登りきらないで漂っているようなあの森の中。
パン屋の店主、望月三由季さんが11年前にここに店を作ろうと決めた当時、ここは鬱蒼とした森だったとか。今では周囲がどんどん開発され森が人里に変っていく。「その速さは驚くばかりよ!昨日まで森があったのに!とか思って」と笑う望月さん。11年前、水道も電気も届いていない森の中にパン屋さんを作ろうとした人。
望月さんの住まいは韮崎市に在る。韮崎といえば山梨県でも、新住民が多く人口密度は高い。商売をするのならそういうところでやったほうが便利だしお客もつきそうなのに・・・何ゆえワザワザこんな山の中にパン屋のお店を開く気になったのだろう。
望月さんの話を聞いているうち、「豊かな自然の中に」というのが望月さんのこだわりに大きなウェイトをしめているのだとわかりました。
パンに入れる様々な材料(豆とか果実とか)を、いずれは自分の畑で作りたいので土地の広いここを買い、畑も付属した「森のパン屋」を作ろうという構想があつたのではないかしら。
他に、実際、ドイツ製の、大人が一人入れるような大きいパン焼き用石焼がまを、自宅の在る密集した住宅地に置くことは難しかったから、ということもある。
しかし、望月さん、やはりというか、ここにパン屋を開店した当初はお客さんが来なくて苦労したようだ。パンを焼いても焼いても、人には売れないで家畜の餌にでもするしかなかった時期が続いたり、森の間を走る別荘客の車の目に付くように路上で販売したりしたとか・・・。そのときの苦労話を始めればきりがないと思われます。なのに望月さんはそんな話はさらっと笑顔で流す人。
11年試行錯誤重ねてきて、今は全国に顧客がいます。その日も産直パンを宅配したりと忙しそうでした。お店に並んだパンも午前中でほとんど売り切れてしまいます。
パン作り教室も定期的に開催。望月さんはまさに女性一人、独力で「森の中のパン屋」を作ってきました。天然酵母や国産小麦を原料にしたパンを並べたパン屋さんを!

化学的な酵母を使ったパンを作るより、天然酵母を使ったパンはつくるのが難しい。そんなパン作りに忍耐強く挑戦する姿勢が、忍耐強く築いた店の歴史とオーバーラップします。
そもなんで、望月さんはパン屋さんになろうとしたのでしょう?!それは望月さんのお子さん達がアレルギーを持って生まれて来たから。特定の食品を摂取するとアレルギーを起こす子ども達のため、望月さんはいろいろと工夫して食事作りをせざるを得ませんでした。
アレルギー治療のもとをたどれば、食品のいろいろな背景が見えてきました。反自然な栽培や様々な添加物。それらが意識しないうちに体内に蓄積され、自分の子ども達に症状となって現れたのではないか・・・。
アレルギー除去の知識や調理技術を探求するうち、望月さんは国産酵母を使ったパン作りの面白さにのめりこみました。
そしてパン焼き技術を取得して、韮崎の自宅で友人や近所の主婦相手に「パン作り講習会」を開きました。その講習会がとても評判で、「ではパン屋さんを開こう」という次のステップに望月さんは立つことになったのです。
リポーターの私、山本はパンよりはケーキやクッキーが好きな「甘党」ですが、「アリコヴェール」さんの果実やナッツ入りパンをいただいてみますと、おや、不思議。砂糖を全然使っていないというのに、充分甘く感じられるのです。それにしっとりしている。干しブドウが甘味の原因だとわかりましたが、その甘味加減が絶妙なのです。
昔、アレルギー対応の材料を使ったクッキーのようなお菓子をいただいたときがありました。味気なくてパサパサして、まるで「鳥の餌?」と思ったことが思い出されました。
「
アリコヴェール」のパンはあれと全然違うなあ。きっと、技術の違いが大きいのでしょうね。

アリコヴェールは山梨県北杜市明野町にあります。
電話番号は0551−20−2030
事前に電話して売り切れを確かめたほうが無難です。(山本豊美)