「日本聞き書きボランティア協議会」は“人は物語を創り、その物語のなかで生きていく。「聴く」ことは分かちあうこと、「書く」ことは自分を知ること。人は必要とされてはじめて、生きることの意味を発見する。”の信念のもと、お年寄りが語る人生を聞き、手作りの冊子
〜『世界に一冊しかない本』〜 を作って贈る「聞き書き」のボランティア活動をしています。地域活動を基本としていて、現在、世田谷・練馬・杉並・その他の東京・多摩・日野を拠点として活動。事実を明らかにして公開するのが目的ではなく、傾聴(セラピー)の延長線上にあると考えます。誰かを傷つけてしまうことがないように、を配慮し、慎重に言葉と心を扱う気遣いをしながらの、ボランティア活動です。
代表の秋山希美子さん(62歳)(写真左)がこの活動を始めたきっかけは平成14年にNHKのドキュメンタリー番組「聞いてください、私の人生」を見たことでした。高齢の方と向かい合って穏やかに話を聞く聞き手の姿にみせられ、早速研修を受けました。そして、東京世田谷で一人で活動を始めました。「結婚以来同居していた主人の両親が、ほぼ同時期に、父はがん、母はアルツハイマーとなり、壮絶な介護生活を送っておりました。その最中はただ夢中だったので気がつかなかったのですが、両親を看取った後、この活動をしているうちにもっと義父や義母の話を、私が聞いてあげなければいけなかったのだと、後悔がどんどん膨らんでいきました。」
秋山さんが「聞き書き」のボランティアをしているということが朝日新聞に取り上げられると、大きな反響がありました。「私もそのうちの一人でした。テープ起こしの仕事をしていたこともあって、自分が何か役に立てることがあれば、と思ったんです。」と現在多摩支部の活動の中核である岩本紀子さん(58歳)さん(写真右)が傍らで微笑みます。そして平成14年4月に「日本聞き書きボランティア協議会」を立ち上げました。
秋山さんは「聞き書き」は傾聴の延長線上にあるとの信念から、活動の傍ら、傾聴・セルフカウンセリング・オンブズパーソンの勉強を続けました。「でも人と向き会うためには知識だけあっても会話はできないと気づきました。笑顔と相手を思いやる暖かい心、これが大事なんですよね。」と秋山さんは言います。
秋山さんは遠くまで出かけて行くのでなく地域の活動としたいと思いました。現在、世田谷・練馬・杉並・その他の東京・多摩・日野の六支部を活動拠点とし、一回約一時間、4〜5回で聞き取り終わり、テープおこしをしてまとめます。言葉をどこまで拾うか、周り、特に家族の気持ちも配慮します。一冊だけの手作りの本に仕上げて、話を聞かせていただいたお礼に感謝の気持ちをこめてご本人に贈呈します。費用は一切受け取りません。聞き取りが終わってからもお互いの信頼関係をつづかせます。なかには半年後ぐらいで亡くなる方もあるといいます。
「聞き手は話し手に敬意の気持ちを持って、ゆっくりと待ちながら心で聞くようにしています。認知症の方が、富山の出身と知って蜃気楼だのほたるいかだのの話を持ち出したら、『ほたるいかは酢味噌で食べるんだよ。』といって居合わせた娘さん方を驚かせたことがあります。聞き手には準備とゆとりの心がほしいですね。」と秋山さんは傾聴は時に認知症の改善の助けになる経験を聞かせてくれました。
翌日現場を知りたくて、立川市の豊泉喜一さん(76歳)(写真右)の自宅にお邪魔しました。昔から何代も続いた農家の趣を残した家です。ここで聞き手(書き手)ボランティアの大屋美良さん(77歳)(写真左)が数ヶ月にわたって4回の聞き取りを行いました。その後、4月から9月までかかってまとめを完了し、つい最近、出来上がった本を豊泉喜一さん(76歳)の元へ届けたばかりです。
大屋さんは豊泉さんの言いたいことがきちんと捉えられたかどうか心配そう。しかし豊泉さんはこんなに立派なものが出来上がるとは思っていなかったと大変喜び、その労苦に感謝していました。「私は原稿はよく書きますが、話し言葉をそのまま文章にすると書いた原稿とはまったく違うものになると知りました。」と豊泉さん。大屋さんは「お人柄が言葉を通して出るのですよね。」と言います。
豊泉さんは立川の農家に生まれ、戦後の貧しい日本の社会では娯楽どころか食べるものも十分にはない中で育った経験から、少しでも世の中の役に立ちたい気持ちで活動し、今でもかくしゃくとした立派な昭和一桁生まれぶりを発揮。同年代の聞き書きボランティアの大屋さんとは、意見が一致することも多く、「平成以降は伝統、地域社会が崩壊している。学問は人間性を育てるもののはずなのに、今は高学歴であってもあまりにも多くの問題が社会で起きている。教育とは何かと思う。」と嘆きます。豊泉さんは農業経験から『木ぼけ』の現象が今の世にも当てはまるとこの本のなかで語り、大屋さんも共感していました。「『木ぼけ』とは、木の周りの土壌があまりに豊か過ぎると木が子孫を残そうと努力しないで実をつけなくなる、これと同じで今の社会は物質の豊かさにおぼれて、まさしく『木ぼけ』現象をおこしているのではないか、ということなんですよ。」と大屋さん。二人の話は尽きません。大屋さんはこの本が4冊目の聞き書きで、大変なことも多いけど、やりがいのあるボランティア活動ですと喜んでいました。
多摩支部は豊泉さんのように現役世代も負けてしまうほどの活動を続けている人の聞き書きのケースも多いですが、代表の秋山さんの世田谷支部は施設での聞き書きが多く、まったく異なったものとなります。前述の認知症の高齢者の聞き取りは、聞き手が相手の人生の背景をよく調べて、ゆっくりと話を引き出す努力も必要です。秋山さんは「お年寄りが卒業した女学校の当時の校歌を調べて一緒に歌っているうちに話を引き出すことが出来たこともありました。」という。「最初はほとんど口を利いてくれなかったお年寄りが、ゆっくり待っている間にだんだん話し始めて元気になってくれるのはうれしいですよ。人生のつらかったときのことを思い出して涙ぐむこともあります。そんなことを全部聞いて、テープを起こして言葉をひろって整理して、本にするのです。綴じて装丁するまですべて手作業です。人の数だけ人生ってあるのだなって改めて思います。」と秋山さん。話し手のために一冊だけを贈呈します。出来上がった本を本当にいとおしそうになぜて、仏壇に備え、自分が死んだときにはお棺に入れてね、と家族に頼む人もいるそうです。立派な自分史を出版するのもそれはそれでいいでしょう。でも、自分のかけがえのない人生が、名誉とか欲とは関係ないこんな形で残せたら、本当に素敵なことと思いました。 (「のんびる」12月号に掲載中。)
(徳重 富士子)
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