現在8割の人が病院で死を迎えていますが、医療制度や終末期医療についての考えが大きく変化するなか、今後は、どこで・どのような医療を受けるのかを考える必要があるでしょう。言い換えれば、私たちは、どこで・どのような死を迎えるかを選択できる時代へと向かっているのです。
終末期医療や、在宅での看取りを考えるにあたり、本人の意思に寄り添う事と、正しい知識、情報の共有が3本柱になるようです。
何より核となるのは、本人の意思です。
2008年2月17日に行われた、千葉・在宅ケア市民ネットワーク(NPOピュア)と千葉県共催の『在宅がん緩和ケアフォーラム―がんでも、安心して最後を家で過ごせるまちづくり』では、本人の意思に寄り添う事・正しい知識・情報の共有と連携が、在宅での看取りにおいて必要な事についてのお話がありました。
基調講演
「より良く生きるために―こころの癒しとユーモア―」

アルフォンス・デーケン氏
(上智大学名誉教授、キリスト教神父、日本における「死生学」の第一人者)
「ユーモアは、相手に対する思いやり、つまり愛の表現」と説くデーケン氏。ご自身の講演も「生まれた時はドイツ人、その後いろいろな国で生活して国際人、そして現在心は日本人です。何も“でーけん(できない)”デーケンです」と、ユーモアあふれる挨拶で始まりました。
黒澤明監督『生きる』について
人間は死に直面しても最後まで成長できる存在という事をテーマにした、とても良い作品。
癌を宣告された主人公が、残りの人生をどのように過ごすか考える。癌におかされ死にいく身体をコントロールすることはできないけれども、どのように死ぬか、残された時間をいかに生きるかと言うことは自分で選択できる。主人公は、子ども達の遊園地を建設するために奔走するという選択をした。主人公が、その遊園地のブランコに乗っているシーン、それは彼の最期の時、とても印象的な場面だった。
クロノスとカイロス
これは、ギリシャ語で時間を表す言葉。
クロノスは、物理的・量的な時間、流れゆく時間。
カイロスは、一度だけ、二度とこない、決定的な時間という意味。
死へ直面して、時間の尊さを意識した時から、時間はクロノス(ながれゆく時間)からカイロスへ(二度と来ない時)となる。
死の4つの側面
(1)
心理的な側面(psychological death)
老人ホームの研究をしているとき、生きる意欲を失った人は、肉体的な死の前に心理的な死を経験するという事に気づいた。
(2)
社会的な死(social death)
人間は、本能的に社会的な存在。入院が長引き家族の足が遠のいた時、その孤独感は計り知れない。これは社会的な死。
(3)
文化的な死(cultural death)
文化的潤いのない施設で死を迎えることは、肉体的死の前に文化的死を体験することになり、辛いこと。
(4)
肉体的な死(biological death)
二十世紀の医療は、肉体的な死に対する問題解決により
肉体的生命の延長に成功しました。
二十一世紀の医療は、
心理的、社会的、文化的生命の延長をどうするかといった総合的な生命を考える必要があると言います。
スピリチュアリティ
昨今よく聞く言葉ですが、これは宗教とは違うものだという事を強調されました。それは、誰の心にもある愛、自己超越の愛、無条件の愛であり、人間の生きる意味を探求することだ。
皆がより良い人生を送るために、今後必要な事
(1)青少年への死生観の教育
(2)ホスピス・ボランティアの養成。
(3)デイケア・ホスピス。家族の休息日ともなり、家族の燃え尽き症候群を避けるためにも必要。
(4)家族への悲嘆教育。
大切な人の死を予期しなければならない状況において、また、看取り後の悲嘆からどのように立ち直るかという事を考える。
そして、ホスピスケアや終末期医療は、社会全体のテーマであると強調されました。
医療、介護の関係者と患者の家族によるパネルディスカッション
・
訪問看護、医師、入院していた病院の医師との連携は、看取りを間近にした家族の大きな安心となる。
・終末期における在宅療養では、死への不安や苦しくなった時の不安が、患者と家族の双方にある。この不安や苦悩がゼロになることはないが、できるだけ安心して、
その人らしく過ごせるように考える事が大事。その時に必要となるのが、いかに患者の心に寄り添えるかという事。本人の思い通りに過ごせてよかった、という家族の思いは、看取り後の心のささえとなる。
・看取りの経験のないヘルパーさんの不安も大きい。今後は、介護職への緩和ケアや看取りの教育など、
医療と福祉の連携がますます重要となってくる
・癌を宣告された家族の「手術はしない」という本人の強い意思表示があり、残された時間をこのように生きたいという思いがはっきりしていた。その事が、その後の医療方針を決め、本人の思いを受け止めた治療ができた。本人の意思に寄り添った治療は、家族も良い医療と受けとめることができた。
・
病気に対する正しい知識。在宅療養についての正しい知識が必要。医療側と患者側で情報を整理し、医療側が、患者が理解できる説明する。
・在宅で療養し看取る時、看取りについての正しい知識がなければならない。在宅での看取りを希望して、在宅療養に移ったのにもかかわらず、最後はあわただしく救急搬送される事が多い。
いかがでしょうか。
明日も今日と同じ日が続くと信じて疑わない毎日を送っている私たちですが、時には、ふと立ち止まり、人生に限りがあるという事を考えてみませんか。
私は、その時「人は死ぬその瞬間まで成長できる」という言葉をかみしめたいと思います。
NPOピュアHP:
http://www.npo-pure.npo-jp.net/
(松尾 陽子)