“田んぼ博士”への取材と聞いて、思い出すの幼い頃遊んだピンクの田んぼ
春、一面に咲いたレンゲを積んで、蜜を吸ったり花冠を作ったり。そして夏休みの祖父の家。目の前に広がる田んぼを見ながら歯を磨き、夜には真っ暗に広がる田んぼの前で花火に興じた後の『琵琶湖の怪談話』。水難事故の多い琵琶湖の夏の夜、腕でかかえるほどの大きな人魂が、ぼ〜ん・ぼ〜んと浮かび上がるという……。
前置きはこのくらいにして、田んぼといえば耕耘機、というぐらい「田んぼ」と「耕す」はきってもきれない縁だと思っていましたが、はたして耕さない田んぼとはいったい何でしょうか。
今月のキーワードは「0(ゼロ)」です。
代表の岩澤信夫さんは、言います。
「田んぼを耕すと、そこに眠っていた草の種を起こすことになるのです。だから、田んぼに草が生えてくるのです」
「不耕起栽培の田んぼは『生き物の棲む田んぼ』です」
では、さっそく『生き物の棲む田んぼ』へご案内しましょう。
冬の田んぼ
稲刈りの後、ワラを敷き詰め田んぼに水を張ります。
やがてそのワラは、水中の微生物により分解され、その養分を栄養源にサヤミドロが田んぼ一面に発生するのです。
サヤミドロが光合成をして酸素を吐き出し、田んぼには水棲の生き物が発生します。

無数のイトミミズがいる田んぼ。イトミミズの排泄物が堆積し、トロトロ層と呼ばれる泥ができるのです。
そのトロトロ層が、雑草の種を覆ってその発芽を抑制するため、除草剤を使わなくてもよいのです。
トロトロ層とは
田んぼの中の泥。おそるおそる手を入れてみました。
春の陽射しをたっぷり受けたトロトロ層は、気持ちよい温かさです。手にとって見ると、ふわっとした感じで、おぼろ豆腐をもっと柔らかく、きめ細かくしたような感触。

匂いをかいでみました。
「あっこれって、どこかで嗅いだことのある。嫌な匂いじゃない。それどころか、清涼感さえ感じる香り」と興奮気味に話す背後で「でもこれ、ミミズのウンチなんだよね」
カエルを皮切りに生き物がやってくる
水温む頃、時には4kmも離れた所から水の匂いをかぎ分けて、カエルがやってきます。「田んぼを畑にしたから、カエルが激減したのです」と、岩澤さんは言います。

「おたまじゃくしがいるよ」
事務局の斉藤さんが教えてくれました。
「去年は、田んぼでカメに会いましたよ。水路でライギョを見かけたこともある」
岩澤さんは言います。
「夏には利根川から鯉が群をなしてあがってきますよ」
春先のカエルを皮切りに、鳥類、クモ・トンボ・タニシ・ドジョウと『生き物の棲む田んぼ』となるのです。
「無農薬とは、何も使わない・何も入れないという事です」ときっぱりいう岩澤さんは、その言葉通り、無農薬・無化学肥料をめざし、生産農家とともに日々研究に努めています。
何も入れない「0(ゼロ)」を目指す人の田んぼでは、微生物や植物や動物の循環という大きな環(0)を作っていました。
伝える
「失敗があるから今日がある」
「農業はまだまだ未完成なんです。体験して完成へと近づけていく」
岩澤さんは、失敗を繰り返し築いてきた技術を、一人でも多くの人へ伝えたいと言います。
午後の講義でも、このような一場面がありました。
標高900mにある田んぼで稲作をしたいという、そばの産地戸隠からの参加者。近くの田んぼではアキタコマチを作っているが、高地ではやはりアキタコマチを栽培すべきだろうか。アキタコマチと不耕起栽培の相性はどうだろうかという質問。寒冷地での稲作の難しさや、不耕栽培に最適な種類はコシヒカリなどという話の後「ササニシキで挑戦してみましょう」という力強い助言がありました。
最後に、この日の講座の参加者をご紹介します。
◆カエルが好きという高校生の女の子。
◆自給自足をしたいなと、子どもが生まれて無農薬に興味を持った新米パパ。
◆子どもの頃は、農作業を手伝わされるのがイヤだった。けれども、やっぱり農業がしたくなったという人。
◆趣味で畑を作っている人は多いけれど、趣味で米作りをしてみたいというサラリーマン(ご夫婦で参加)。
◆東京で音楽活動をしていたけれど、実家(四国)へ戻る事を決意。この塾で自然の力を感じ、四国でこの農法を広めたいと豊富を語ってくれました。「ご両親も喜ばれたでしょう」と聞くと「おばあちゃんが、すごく喜んでくれました」と一段と爽やかな笑顔が返ってきました。
◆大分からやってきたというご夫婦。今年から農家の実家を継ぐことにしたけれど、今までの稲作りに疑問を持ち、この塾に参加。今でも、実家の両親は、この農法に半信半疑だといいます。
みなさんの田んぼに、不耕起栽培の稲穂が頭を垂れる日が来る事を祈りつつ、取材を終えました。
田んぼ博士の応援隊HP:http://www.tanbohakase.com/
(松尾 陽子)