七年(ななとせ)の辛き介護を振り返り
よくも出来た(やれた)と我が手を見つむ
徘徊の妻追う道ではっとする
赤信号を渡り行く背に
人形を孫と思いて抱く妻の
あやす笑顔の何と麗し
その時のつらき介護の思いをば
短歌(うた)に託して心やすらぐ
ひとりにて妻の襟巻首に巻き
昔を偲び西伊豆の旅
これらの歌は、認知症を支える家族の会「かまくらりんどうの会」の副代表、池田金蔵さん(88歳)による短歌集、「妻を想う」のなかの数首です。
池田さんは70歳代後半を迎えるころから、認知症の奥さんを介護してきました。現在、奥さんは施設に入所されています。
「かまくらりんどうの会」は1989年(平成元年)、神奈川県鎌倉市の旧鎌倉保健所で行なわれた「痴呆老人を抱える家族の会」に集まった有志10数人によって発足しました。
現在の会員は、認知症の家族をもつ人(=A会員)、認知症の家族を看取った人(=A’会員)、会の趣旨に賛同する人(=B会員)の合計約160名。鎌倉、逗子、葉山、横浜、藤沢に住んでいる方たちです。
この会では、認知症の理解や情報交換などを目的とし、サポート会やリフレッシュのための「みんなでディ」の運営、電話相談、施設でのコーヒーサービス、バス旅行、講演など、きめこまやかな活動をボランティアで行なっています。
会報印刷の作業の日、代表代行の鈴木文子さんと副代表の渡辺ヨシさんにお話をうかがいました。

【鈴木さん(右)と渡辺さん。充実した内容のホームページも渡辺さんが担当。】
「私たちの会の活動では『先行く仲間』である介護経験者の、A’会員のみなさんの存在がとても大きいんです」と、おふたり。
認知症の家族の介護経験をもつ会員(A’会員)のみなさんは、現在家族を介護している会員(A会員)に、介護保険の申請、デイサービス、ショートステイなどについて、「そういう性格の方なら、こういう施設のほうがいいですよ」「ケアマネジャーさんに腹をわってお話しするといいわよ」と、体験者だからこそわかり、言うことのできる具体的なアドバイスをしたり、悩みを親身に聴いて分かち合うなどして、介護者を支えています。
また、家族を看取った会員(A’会員)にとっても、「老後を無意味に過ごさないという意味でも、この会は生活のはりになっています。人のためというより自分のために活動していているんです。この会に救われているんですよね」とも。
そして、この会では人に見せたくない恥部のようなところを見せ合うことになるので、あっという間にこころが通じあうそうです。
かまくらりんどうの会の運営委員のうち7名は、現在、家族を介護している人たちです。それは、(介護の)“現役”の方の生の声を聴き、会の運営に反映させるため。そういう声を聴かないと、いま現実に介護をしている人の苦しみはわからない、と鈴木さん。
先の短歌の池田金蔵さんは、「男性会員の“総元締め”みたいな方」。
認知症の家族がいても、男性はなかなか集まりに来づらいようですが、そんなときにはまず、池田さんが個人的に男性に何度か会って話し相手となり、その後りんどうの会につれてこられるとのことでした。
第1、第3土曜日の相談電話「りんどうテレホン」には、とくに名乗らず「ちょっと悩みが・・・」とかけてくる方が多いそうです。
「話を聴いているだけで、半分ぐらいの方は気持ちが落ち着いてきます。こちらまで出かけてくるのは、勇気がいるようです。『また、いずれ』と言って、3年がかりで入会された方もありますね」。「会の初めのころは、親を介護している方が多かったけれど、いまは夫婦が多いです。『子どもには、自分のような苦労をさせたくない。介護保険を使って、人生をまっとうしたい』という考えの人が多いように思います。ここで活動していると、人生観が鍛えられます。いろんな“果実”をもらっているんですよ」と渡辺さん。
かまくらりんどうの会の今後の夢は、大きく2つあります。
1.介護者のシェルター(かけこみ寺)をつくりたい
一時預かりをする施設でも、「認知症の方は、ほかの入所者に対して
暴力があると困るから」という理由で断られてしまう。三浦市にある
介護施設では受け入れてくれるので、介護者は生き返ることができる。
地元の鎌倉でも、受け入れ施設ができるよう署名活動をし、ことし5月
末の市議会に提出したい。
2.介護体験文集の作成
来年で発足20周年になる記念として。
私の友人にも、家族の介護に奮闘する人たちがふえてきました。いつのまにか、そんな年齢になっていたのです。私もいずれは身内の誰かを介護することになるだろうという気持ちの準備はあるつもりです。でも、えらそうに言っていても、私のこと。それが現実のものとなったら、きっと混乱したり途方に暮れたりして、ひどく情けない状況になるだろうということも容易に想像できてしまいます。
そんなとき、身近にかまくらりんどうの会のような集まりがあって、『先行く仲間』が話を聴いてくれたり、親身になってアドバイスをしてもらえたなら、気持ちがなぐさめられ、こころの支えになるにちがいありません。
この日いただいた3冊の本には、どれも家族を介護してこられたみなさんの飾らない本音が語られていて、胸に迫ってきます。私がいつか介護する立場になったとき、『先行く仲間』からのメッセージとして励ましてくれる気がします。
介護のたいへんさ、つらさは、経験した人でなければ本当にはわからないものでしょう。
自分と同じ経験をした人が話を聴いてくれる、そして支えてもらった人が、次は人を支えていく・・・。
人と人が支えあうことでつながっていく、かまくらりんどうの会のような居場所が、それぞれの地域にできていってほしい、そして介護者がひとときでも、こころやからだを休めることができる『シェルター』となってくれる施設がふえていってほしいと思います。
辛いこと悩むこと多き介護には
真実(まこと)話せる仲間が欲しい
辛いとき苦しいときのサポートは
みなで支えるりんどうの会
(いずれも池田金蔵さん)

【この日、会報の作業に集まったみなさん】
かまくらりんどうの会
http://www1.kamakuranet.ne.jp/w-yoshi/
代表 木場貞雅 さん
連絡先 メール k-rindou0@kamakuranet.ne.jp
◆認知症介護の相談電話「りんどうテレホン」
第1、第3土曜日 13時から16時まで
TEL 0467−23−7830
(成相陽子)