早くも始まったインフルエンザの流行
電車に乗ると、ゴホゴホやっている人が目立つようになりました。今年のインフルエンザは、例年になく立ち上がりが早いそうです。国立感染症研究所感染症情報センターによると、今シーズンは1987年以降でもっとも早い流行。学級閉鎖も11月末までに300校を突破しました。
今年の冬は急激に冷え込んだうえに、空気が乾燥した日が多いので、大きな流行が懸念されています。現在、流行中のインフルエンザは、ここ5〜6年、国内で流行することのなかった「ソ連型」。久々の登場なので、子どもや高齢者ばかりではなく、まだまだ若いと思っている私たちも、ワクチン接種をはじめ、うがいや手洗い、マスクの着用など、日ごろからの予防策を徹底したほうがよさそうです。
昨年はインフルエンザ治療薬「
タミフル」の”異常行動”疑惑で、マスコミがおおいに沸きました。それにかわって注目されるようになったのが吸入薬の「
リレンザ」。けれども、吸入が難しいという現場の医師の意見や、副作用を心配する声もあります。スポットが当たってきた漢方薬など、治療薬の話題も含めて、今シーズンのインフルエンザ情報をお届けしましょう。
インフルエンザって、風邪とどう違うの?
「インフルエンザ」は、インフルエンザ・ウイルスによって引き起こされる伝染性感染症です。A型、B型、C型の3つに大きく分類され、おもに流行するのはA型とB型。A型には、「香港型」や、今年、流行が始まっている「ソ連型」などがあり、A型とB型に同時にかかったり、同じA型でもソ連型にかかったあと香港型にかかるなど、ダブル、トリプル感染することもあります。

写真=インフルエンザのウイルス
インフルエンザは、その年によって流行する型が変わります。さらにやっかいなことには、同じ型でも毎年微妙に形を変化させるので、前にインフルエンザにかかってできた免疫も、ほとんど役に立ちません。
インフルエンザは、世界中で4000〜5000万人以上が死亡したとされる1918年の「
スペイン風邪」以来、1957年の「
アジア風邪」、1968年の「
香港風邪」、1977年の「
ソ連風邪」と世界中で大流行し、多くの死者を出してきました。最近では大きな流行は起こっていませんが、いずれ新型インフルエンザが大流行すると予言され続けています。
インフルエンザはふつうの風邪と違って、重症になることがあるので要注意。ふつうの風邪は、のどの痛み、鼻水、くしゃみ、せきなどの症状が中心で、全身症状はあまり見られません。熱も高くはならず、重症になることもほとんどありません。
いっぽう、インフルエンザは風邪の呼吸器症状(のどの痛みやせきなど)に加えて、38〜40度以上の急な発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛など、全身の症状が強く現われます。こうした症状は、通常5日間ほど続きます。
高齢者や、呼吸器や心臓などに慢性の病気を持つ人は、気管支炎や肺炎などを、子どもは中耳炎や熱性けいれんなどを併発して重症化することがあり、最悪の場合は死に至ることもあります。近年、インフルエンザに感染した子どもが、まれに急性脳症を起こし、死亡する例も報告されるようになりました。
子どもや高齢者のいる家庭は、くれぐれもご注意を。
インフルエンザと風邪は、症状だけでは判断がなかなかできないため、最近では、インフルエンザに感染しているかどうかを簡単に調べられる検査薬(
検査キット)を使って調べる医療機関も増えてきました。「おかしいな」と思ったら早めに受診して、適切な処置を受けるようにしましょう。
家庭内感染を防ごう
「予防の心得」その1として、どのお医者さんも口をそろえて勧めるのは、インフルエンザのワクチン接種を受けることです。ワクチンを受けても、インフルエンザにかからないという保証はありませんが、かかったときに軽い症状で済むからです。
※ワクチンに関しての詳しい情報は?→
ここをクリック
※注射以外のワクチンも登場しそうです→「
インフルエンザ 注射より効く鼻ワクチン」「
注射いらず。飲むワクチン東大が開発」「
飲むワクチン開発に挑む」
「予防の心得」その2は、「人ごみを避ける」こと。とはいえ、家にばかりこもってはいられないので、外出をするときには「マスクをする」。そして、外出から戻ったら、「うがい&手洗い」を忘れずに。室内では「加湿器」を使って適度な湿度を保ち、栄養バランスのいい食事と、「十分な睡眠」を取る。後述しますが、とくに「マスク」と「うがい&手洗い」は、インフルエンザ撃退には、とても効果があります。
専門家によると、
0〜6歳児が第1感染者となった場合、ほかの家族に感染が発生する率が高いそうです。ですから、お孫さんを含めて、小さな子どものいる家庭では、外からの子どもへの感染と、子どもからの家族への感染の両方を防ぐことが必要です。
まずは当たり前のことですが、家庭内にインフルエンザを持ち込まないよう、予防を心がけることです。ワクチンをしてもインフルエンザがうつってしまうことはありますが、家庭内感染を防ぐためには、家族全員でワクチンを受けたほうがいいでしょう。もしも家に患者が出てしまったら、第2次感染を防ぐ手立てをとります。とくに看病に当たることの多い人は、家庭内でもマスクをするなどの予防が必要です。
熱が下がっても、3〜4日はインフルエンザのウイルスは排出されています。ですから、解熱したからといって安心をせずに、感染に注意しましょう。
お母さん方のインフルエンザは家庭内感染が70パーセント以上だそうです。
インフルエンザから身を守るマスク
インフルエンザのウイルスは、患者が咳やくしゃみをしたときに、飛び散るしぶき(飛沫)に入って、空気中に広がります。飛沫は1回のくしゃみで約8万個、飛び散る速度は時速100キロ以上。電車のなかや歩行中、口を押さえずに咳やくしゃみをしている人をよく見かけますが、そういう人は、まさに「歩く凶器」です。風邪やインフルエンザにかかっているかどうかにかかわらず、咳やくしゃみをするときには、口を押さえるのは、最低限のエチケットなんですが、やってない人、多いですね。
とはいえ、咳やくしゃみの飛沫は重いので、届く距離は1〜2メートル。私は「歩く凶器」に出会ったら、さっと遠ざかるか、その場で息を止めて吸い込まないようにするか(間に合うかな〜)しています。
転ばぬ先の杖ではないけれど、盾となって感染ルートを断ち切ってくれるのがマスクです。マスクには、ウイルス、細菌、花粉などが体内へ侵入を防止する役割と、自分自身が咳やくしゃみをするとき、放出される飛沫の拡散を防止する役割のふたつがあります。
マスクはウイルスや細菌をろ過する、いわばフィルターですが、ウイルスの大きさは、100ナノメートル(1ミリメートルの1万分の1)以下で、タバコの煙の大きさとほぼ同じです。こういう微小な粒子をフィルターで引っ掛けるには、きわめて目の細かいフィルターを使わなければなりません。
ですから、インフルエンザのウイルスを防ぐという目的のためには、スースーと風が通ってしまうふつうのマスクではなく、「ウイルス対策」と銘打った目の細かいマスクのほうがオススメということになります。
これに加えて、マスクの効果を最大限に引き出すには、適切な装着が不可欠です。これはインフルエンザ対策だけには限りませんが、マスクをつけるときには、まず、つける方向を確認し、ノーズフィットワイヤーを折り曲げ、鼻の形状に合わせてフィットさせる。そして、縦に広げて鼻から口までをすっぽりと覆います。正しく装着することで、顔とマスクの隙間からの空気の侵入を減らすことができるからです。
目の細かいマスクを正しく装着することで、ウイルスの体内侵入量を減少させることはできますが、マスクをつけたら感染を100%防止できるかといえば、そこまではちょっとむずかしそうです。でも「しないよりはず〜といい」ことも確か。
もうひとつ気をつけたいのが、マスクをつけていても、ウイルスは手や顔や、髪の毛、衣服にもついているということ。
この時期は電車のつり革をはじめ、あらゆるところにウイルスがついています。それを触った手で、家に帰っていろんなものに触れば、家の中にウイルスが付着することになります。外出から帰ったら、すぐに「うがい&手洗い」をするのが大切だというのは、そのためです。
また、ウイルスは湿度が高いと早く死滅するので、室内に持ち込んだウイルスの悪影響を防止するためには、加湿器などで部屋の湿度を保つことが効果的だといわれています。
外にいるときも、目や口にはできるだけ触らないようにし、お茶や食事をする前には手を洗う、といったことも心がけたほうがよさそうです。
マスクの効用、ほかにもいろいろ
関西医科大学耳鼻咽喉科助教授の
久保伸夫さんが、風邪の患者を対象におもしろい臨床試験をしています。咽頭痛の症状が出てから3日以内の患者約40人に、「抗生物質をのむ」「消炎鎮痛剤をのむ」「1日中マスクをする」という対策法をさせ、ノドの痛みがどれだけ続くかを調べました。
その結果、マスクをした人は、何もしない人に比べて痛みの持続時間が半減したそうです。いっぽう、抗生物質や消炎鎮痛剤を飲んだ人は、痛みの持続時間は何もしない場合とほとんど変わりませんでした。「
マスクで喉を保湿しておくと、薬よりものどの痛みを早く改善する」と久保助教授は語っています。
「ぬれマスク」の効用を説くのは、歯科医師の
臼田篤伸さん。木綿のマスクを水でぬらして軽く絞り、マスクの上部3分の1を外側に折り返し、鼻を覆わずに装着する、という簡単なものですが、暖房で乾燥した部屋や、夜、寝るときには、効果抜群だそう。詳しくは著書の『
ぬれマスク先生のここがおかしい風邪の常識』(角川書店)で。
今年の治療薬、タミフル? リレンザ?
では、今年のインフルエンザ。かかったかな、と思って病院や診療所に行ったら、お医者さんはどんな薬を使うのでしょうか。
「日経メディカル」が、臨床医を対象に行った「インフルエンザ治療に対する意識調査」によると、今シーズンの治療薬は、副作用の心配があっても「タミフル」を引き続き使うか、タミフルの使用制限で一躍クローズアップされた「リレンザ」を使う、と80パーセント弱の医師が答えています。うち、「タミフルとリレンザを使い分ける」と答えた医師は約50%。「タミフルのみ」は23.7%、「リレンザのみ」は4%、「どちらも使わない」と答えた医師は8.7%でした。
タミフル(リン酸オセルタミビル)の製造元は、スイスの製薬会社「ロシェ」で、日本では中外製薬から発売されているインフルエンザの治療薬です。これはインフルエンザ・ウイルス(A型、B型)が体内で増えるのを抑える薬で、インフルエンザの症状を緩和し、症状が出ている期間を短縮する効果があります。ただし、インフルエンザのウイルスが増えていく時期(かかってから48時間以内)に飲まないと、効果は上がりません。
タミフルは
異常行動の副作用が報道されて注目されましたが、発売前の治験から、発生頻度のわかっている副作用として腹痛、下痢、嘔気などが報告されていました。ニュースなど話題になった“異常行動”については、発生頻度のわからない副作用として、薬の詳しい説明書(薬剤添付文書)に記載されています。そのほか、肝機能障害・ショック症状・肺炎・急性腎不全(全て頻度不明)なども記載されています。
タミフルに限らず、どんな薬にも副作用はあります。そのため、医師は診療するときに、効果と副作用を比較して、効果のほうが大きいと判断した場合や、効果の上がる確率が高い場合に、その薬を処方します。タミフルは発売されてからの期間が短い薬なので、副作用について、まだまだわからない点がたくさんあります。
実はタミフルは、2007年3月20日から、厚生労働省の指導で「原則的に10代には使用禁止」となりました。12歳の男児の飛び降りによる骨折が報告されたため、10代は体力があり親などが静止できないということもあって、使用制限に踏み切ったようです。
アンケートでもこれを受けて、10代の患者にはリレンザを使うけれど、成人と高齢者と1〜4歳の幼児には、リレンザよりもタミフルを使うという医師が多いという結果につながったと見られます。
アンケートの自由意見欄には、「本来ならタミフルを使用したいが、患者側に不安があるようなので、使用する場合は説明をして、同意を得てからということになると思う」といった意見が目立ちました。
タミフルはカプセル(幼児の場合は粉のドライ・シロップ剤)ですが、
リレンザは吸入式です。タミフルよりも効果が高いといわれていることもあって、子ども、とくに投与を制限されている10代の患者に対しては、リレンザを使うと回答した医師がたくさんいました。ただし、「吸入指導がうまくいくか心配」という声に加えて、「メーカーの供給量が間に合うのか」という心配や、「リレンザでも“異常行動”が出ないとは言えない」といった、副作用を懸念する声もありました。
治療の選択肢に漢方を使う医者も急増
アンケートの選択肢にはありませんでしたが、自由意見欄では「漢方を使う」という意見も多く見られました。麻黄湯は麻黄、杏仁、桂皮、甘草の生薬を混合した漢方製剤で、適応には「感冒」「喘息」「乳児の鼻閉塞」などに加えて、「インフルエンザ(初期)」と明記されていますが、それを裏付ける臨床データが出たため、昨シーズンの「タミフル騒ぎ」以来、黄麻湯をタミフルの代わりに使う医師が増え始めています。
「自分の子どもなら、漢方薬を処方し、暖かくして安静にさせると思います」と書いてきた医師もいました。初期のインフルエンザの場合は、強力な選択肢のひとつとして、かかりつけ医に相談してみるといいと思います。
最後に風邪の季節に役立つ漢方薬を、タイプ別に紹介しておきましょう。
【まだまだ体力のある風邪の初期に】
●
葛根湯(かっこんとう) 風邪のひきはじめ、頭痛、肩こりに。ただし、「風邪のひきはじめ」でないとダメ。自然発汗のない人に。
●
小青竜湯(しょうせいりゅうとう) 透明でサラサラしたうすい鼻水、くしゃみと鼻水の出る風邪、アレルギー性鼻炎に。水っぽい痰がからむ人にも。
●
銀翹散(ぎんぎょうさん) のどが痛いなどの症状がある人に。ハッカが入っているのでスーッとします。
【体が弱っている風邪の後期に】
●
柴胡桂枝湯(さいこけいしとう) 下痢、腹痛、吐き気のある風邪に。柴胡が入っているので免疫力を高めます。
●
五虎湯(ごことう) 黄色い粘りのある痰が出て、布団に入ると咳き込んだり、暖かい部屋に入ったときに咳き込んだりする人に。これはどちらかというと体力のある人向き。
体力のない人には、麦門冬湯や、竹じょ温胆湯(医療用)などがいい。
●
麦門冬湯(ばくもんどうとう)カラ咳がでる人に。のどにうるおいを補いながら、咳をしずめる働きがあります。咳の治療に広く使われる漢方薬です。
(中澤まゆみ)