雨宮政揮さん 山梨県笛吹市で果樹園農家を運営。 やまなし特栽協同組合
写真提供/雨宮政揮
「4パーミル・イニシアチブ」。聞きなれない言葉ですが、 地球温暖化の進行をとめるための農業分野での先進的な取り組みのことです。 果樹王国といわれる山梨県の果樹栽培農家が、 実際にこの取り組みを開始して注目されています。 キーワードは、「土壌表層での炭素貯留」。 おいしい果物の栽培と脱炭素がどう関係してくるのか、不思議です
気持ちはポジティブ、 カーボンはネガティブに 果樹園農家が取り組む脱炭素農法 「4パーミル・イニシアチブ」 雨宮政揮さん(やまなし特栽協同組合)
<バイオ炭を土中に埋める>
─まず、初歩的なことをうかがいます。雨宮さんは、現在「やまなし特栽協同組合」に所属されていますが、
「特栽協同組合」の何たるかをお教えいただけますか。
雨宮 山梨県の峡東3市(山梨市、甲府市、笛吹市)で特別栽培基準で果樹を栽培する農家19名が集まって、
2023年に設立した協同組合です。「特別栽培基準で作られた農産物」とは、
節減対象農薬と化学肥料由来の窒素成分の両方を、
地域の慣行レベルの基準に比べて50%以上削減して作った農産物です。
─ありがとうございます。では、本題です。「4パーミル・イニシアチブ」というのは、どんな活動なのでしょうか。
雨宮 世界の土壌表層の炭素量を年間4パーミル増加させることができれば、
人間の経済活動などで増える大気中の二酸化炭素(CO2)を実質ゼロにすることができる。
そうした考え方にもとづいて、農業分野から脱炭素社会の実現をめざす取り組みのことです。
─4パーミルというのも、初めて聞く言葉です。
雨宮 「パーミル(‰)」とは「パーセント(%)」の10分の1の単位で、
4パーミルは0・4%に相当します。
「4パーミル・イニシアチブ」は2015年のCOP21(※1)で、
フランス政府が中心となって提唱し、日本では山梨県が最初に取り組みを始めました。
─山梨県の果樹園農家が脱炭素の活動を始められたのですね?
雨宮 県の農政部の話を聞く機会がありました。そのとき、担当部長さんから、
農業もCO2を排出しているとの言葉があって、
ちょっとショックを受けた農家の仲間もいました。
まさか農業が環境に負荷を与えているとは知らなかったのです。
─それで、県からは具体的にどんな提案があったのでしょうか?
雨宮 果樹園でも「4パーミル・イニシアチブ」がやれると。
モモやブドウなどの果樹園では、冬に枝などを切る剪定をやります。
剪定枝には植物の光合成によって炭素が貯蓄されています。
その剪定枝を燃やすと、炭素が酸素と結合してCO2になり、大気中に戻ってしまうのです。
写真提供/雨宮政揮
─それが、農家もCO2を排出しているひとつの要因ということなのですね。
雨宮 はい。けれど、剪定枝を燃やさず、
炭(スミ=バイオ炭)にすることでCO2の発生を減らすことができ、
そればかりでなく、微生物などによる分解がされにくくなる。
そのバイオ炭を畑に撒くことで、
半永久的に炭素を土壌中にとどめることができるという説明でした。
─それが結局、大気中のCO2の増加量を抑えることにつながるというわけですね。
雨宮 そうです。今は世の中全体が低炭素社会に向かわないといけないという機運にあると思いますが、
私たち農家も今何かをやらないといけないという思いはずうっとあって、ちょうどいいタイミングでした。
(※1)2015年のCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)においてフランス政府が主導で提唱し、
2022年12月現在で、日本を含む744の国や国際機関などが参加。
日本では山梨県が2020年4月、国内の地方自治体として初めて参加した。
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◆7・8月号目次◆
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