森の102工房(埼玉県所沢市)(特集「豆でまぁるく」より)

文/濵田研吾 写真/堂本ひまり

朝早く、大豆を炊く釜が湯気を出し、 「ぷしゅ、ぷしゅう~」と心地よい音色が森に響きます。
春夏秋冬、豆腐屋の一日は、こうして始まります。 

豆腐屋の朝はなぜ早いのか?  
所沢パークタウン並木通り団地から少し歩くと、住宅街に広い森が見えてきます。
ワーカーズコープ(※1)埼玉西部地域福祉事業所が運営する「森の102工房」は、その森のすぐそばにあります。
案内してくれたのは、工場長の渡部清さん。「工房にきて11年目。豆腐づくりは、工房の先輩に教えてもらいながら、
独学で学びました。大豆やにがりにこだわったり、奥が深くて楽しいです。ただ、真冬はつらい。水で手がかじかんで堪えますね」製造するのは湯葉、絹豆腐、寄せ豆腐、豆乳など。国産大豆100%で、北海道産「トヨムスメ」、宮城県産「ミヤギシロメ」、富山県産「シュウレイ」を使用。さらに月に2回、所沢産の大豆(埼玉在来種)で「森のとうふ」もつくっています。この大豆は、同事業所が運営する「森のとうふ屋さんの手づくり菓子工房conomi」(就労継続支援B型作業所)の畑チームのメンバーが育てたものです。豆腐屋の朝はなぜ早いのか?
それはできたてを、お昼前に並べるからです。大豆は、前の晩から約12時間、水に浸します。それを機械でつぶし、釜で煮て、豆乳とおからに分けます。


搾りたての豆乳(無調整)を、飲ませてもらいました。あったかくて、甘~い。おからも甘みがあって、パサパサしていません。「豆乳だけでなく、おからも人気があるんですよ。工房の機械が古いこともあって、おからは、豆乳が搾り切れていないんです。そのぶん、しっとりとして甘みがあり、豆腐の風味に近いんです。お店(狭山ヶ丘店)に並べるとすぐ売れてしまいます」豆腐づくりの工程でできる豆乳とおからは、西所沢にあるconomiに運び、豆乳シフォンケーキ、豆乳プリン、豆乳チーズケーキ、大豆チョコ、おからビスケット、おからガトーショコラなどの「とうふスイーツ」に使われています。

親子二代、豆腐でつなぐ  
豆乳ができると、次は豆腐づくりです。繊細な食べものだけに、職人のさじ加減で味、舌ざわりが変わります。
担当は橘高広さん。「豆を水に浸す工程と、豆を蒸らす温度や時間に気を使います。夏と冬では、水温がぜんぜん違います。夏は水に氷を入れてできるだけあたためず、浸す時間も調整します。ここで失敗すると、豆の香り、うまみがうまく引き出せません」型へ流した豆乳に、にがりを加えます(にがりうち)。それをパックにつめ、そのまま固めます。豆乳、にがりのほかは、何も加えていません。ベテラン職人の貫禄! と思いきや、
橘さんは豆腐づくりを始めて1年ちょっと。意外です。「勤めていた会社を休職し、別の仕事を探そうとしていたとき、妻がここの求人を見つけてくれました。実は両親が清瀬市(東京都)で、手づくり豆腐の店をやっていたんです。思いがけない、うれしいご縁でした」橘さんの実家のお店では、夏でも冷たい井戸水を使い、豆腐や油揚げをつくっていました。ときどき常連だった人から、「お豆腐、美味しかった」と声をかけられるそうです。「店は閉めましたが、両親の働く姿、店の佇まい、油揚げの匂い、おからの香りは覚えています。でも、肝心の豆腐の味を覚えていないんです。
それが残念で……」

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◆1.2月号目次◆
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