『のんびる』起業塾生インタビュー
金沢文庫駅東口を起点に67店舗が軒をつらねる
すずらん通り。この商店街の一角で、今年(2013年)10月
から「すずカフェ・プチ」が開かれています。
月2回、手づくり&お茶で憩う2時間ほどの集い。
すずらん通りにコミュニティカフェをつくる足がかりとして、
阿久津佳子さんが仲間と始めました。
「実践起業塾」第9期修了生「すずカフェ準備委員会 代表」 阿久津 佳子さん
本当にやりたかったのは居場所づくり
すずらん通りは、阿久津さんの生活圏であると同時に職場でもあります。
「すずらん通り商店会」の事務員を務めて、もう5~6年。
高度成長期には人があふれていた商店街ですが、駅の反対側の開発で人の流れが変わり、
シャッターが下りたままの店舗が出始めています。
阿久津さんは商店会の皆さんと共に、賑わいを呼び戻すための企画に力を注いできました。
その仕事の傍らで、ずっと続けているのが、アクセサリーづくりです。
子どもが小さいころから作品を委託販売したり、教室で教えたりしてきました。
「いつかはアクセサリーのお店を出せたらと思い続けて10年。
ふとパルシステムの情報誌に載っていたコミカフェ起業塾(*)の案内が目に入ったんです。
すぐに事務局に電話をしました」
*2012年10月~12月に開催された「コミュニティカフェ実践起業塾」(セカンドリーグ神奈川主催)
2カ月間学び、最後にまとめたのは、商店街に出会いの拠点をつくる「すずカフェ」事業計画。起業塾で学ぶうちに、お店を開くより居場所づくりをしたかったことに気づいていったのだそうです。
ひとりで生きているつもりでいて。でも、子どもを産んでからは、人に支えられて いることに気づきました。
PTAでは、特にそれを痛感しました。子育てのなかでせっかくできたつながりを、
手放したくないという気持ちもありました」
子どもが中学校を卒業するぐらいから、ふっと心に喪失感を抱えてしまう人もいる。
この世代の女性特有のからだの不調が出る人もいる。
夫とのラブラブ時代は 終わっている。
家事をひとりで担っていても、できて当たり前でほめられない。
「そういう人がたくさんいるんです」と阿久津さん。
そんな同世代の仲間がほっ とできる場が、誰かのためではなく自分自身にも必要と気づいたのです。
仲間集めからやや難産を超えて
ただし、起業塾修了後、商店街とのタイアップは思うように進みませんでした。
「何の肩書きもない、ちっちゃいおばさんの言うことは、なかなか聞いてもらえないです」。
自信を失いかけていた阿久津さんを元気づけたのは、「大丈夫。あなたはきっとやると思っていた」という
起業塾のコーディネーターだった山根眞知子さんの一言でした。
これが今年の2月。「迷わないでやっていけばいいんだなと思いました」。
3月には、友人知人に声をかけ「すずカフェ準備委員会」を立ち上げました。
「わたしの強みはネットワークだけだなと思っているんです」。
PTA仲間、ソフ トボール仲間、同じマンションの子育て仲間、起業をめざす仲間……。
「何の負担もないし、お金もとらないし、宗教的なことでもない。
たとえあなたが参加を 断っても、友だちであることに変わりはない。
できることをできる範囲でやってもらえばいい。
私がステージをつくるからそこに乗って、動いて、やりたいこと をやって」
こう声をかけ集まった仲間たちと話し合いを重ねたものの、
「カフェをやるために必要なことを知れば知るほど、スタートが遠いものに見えてきて」となかなか前進せず。
9月を迎え、その状況が一変しました。
友人が「阿久津ちゃん、うじうじしていないで、何か動きなよ」と、背中を押してくれたのです。
気持ちを固めて、まずは午前中だけの単発の集まり「すずカフェ・プチ」を
無事スタートさせることができました。
ふり返れば、場づくりの足跡
「押しの強さが欲しいです。親しい人にも〝絶対に来てね〟とはなかなか言えないし」と
話す阿久津さんですが、実は子どもが小さいころから場づくりを自然にやってきていました。
出産したものの保育園の空きがなく、じゃあと始めた育児サークルが最初。
子どもが幼稚園にあがると、今度は幼稚園帰りの親子に家を開放していました。
「早帰りの水曜日に『寄ってお茶を飲んで、
何かつくりたいものがあったらつくっていって』と声をかけて」。
その次に始めたのが、マンションの集会室での「ティータイム」。
「月に1度、手づくりキットを用意して、お茶とコーヒーは持ち寄りで。
下の子の幼稚園のお 迎えの時間までちょこちょこと。ちょうど30回やりました」。
このときのメンバーを、すずカフェ・プチに誘ったら、
「ティータイム復活ですか? 行きたい!」と言われたそうです。
振り返ってみると、ずっと助走を続けてきたようでもある阿久津さん。
「そうですね。私はコミュニティカフェを開くために生まれてきたのかも。
今までやってきたことは、みんなそのための修行だったんですね!」
すずカフェをつくることを決意してからは、
さまざまな応援を申し出てくれている人たちの声に励まされることもしばしば。
「恥ずかしがらないでやりたいことを話すと、うれしい声が返ってきます。
返ってくるから逃げられません。できなかったらどうしようと言っていたら本当に何もできないので。
やらないで後悔するより、やった後悔」
自分を叱咤するように語りながら、すずカフェ・プチで一歩一歩実績を積み上げています。
(『のんびる』2014年1月号“はじめの一歩通信”掲載)