しぎはら・こういちろう
福島県郡山市出身。東北大学大学院農学研究科博士課程2年。環境NGOや生活困窮者支援団体での活動に参加。東北で起きた豪雨による土砂災害を目の当たりにして、環境破壊を伴う森林開発を止め、森林保全・再生のモデルをつくりたいと、2025年に仲間とアグロフォレストリー・ラボを設立。

新しいアクションを起こしている人に注目する連載「動くヒト」。今回は、環境問題や貧困問題に取り組む大学院生の鴫原宏一朗さんです。今年、メガソーラー開発から森を守る新しいモデルづくりの挑戦をスタートさせました。 文/中村未絵 写真/堂本ひまり

世界の若者の行動に心動かされた

世界の若者の行動に心動かされた
 いまから7年ほど前、当時15歳だったスウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんが気候変動対策を求めて一人で始めた学校ストライキは、「Fridays For Future(未来のための金曜日)」というムーブメントとして世界中に広がりました。現在、東北大学の大学院生である鴫原宏一朗さんも、そんなグレタさんの行動に影響を受けた一人です。
「世界中で若者がストライキをしているのを知り、いてもたってもいられませんでした」。2019年、当時大学4年生だった鴫原さんはFridays For Future(FFF)ジャパンの活動に参加。FFF仙台を立ち上げ、地域の仲間と、政府や企業に気候変動対策を求め、環境破壊を止める活動を続けてきました。
「メガソーラー開発や石炭火力発電所の問題など、国内だけでなく海外でも環境破壊に対する抗議活動をしてきました。実際に反対運動で止まった開発もあります。でも、『NO』を言うだけの運動に限界も感じていて、どう自然環境を守っていくのかも考えなくてはいけない、とモヤモヤしていたんです」
 ターニングポイントになったのは、2019年の台風19号による豪雨災害で大きな被害を受けた宮城県丸森町を、地域の人たちの案内で訪れたことでした。
「土砂崩れが起きた山を間近で見ました。地域の人たちから聞いたのは、もともと崩れやすい地質なうえに、高齢化や林業の衰退などで山を管理する人がいなくなり、山が災害に対して弱い状態になっていたということです」
 そんな丸森町で、新たに山を伐採してメガソーラーを建設する2つの計画が持ち上がっていました。その面積はなんと東京ドーム25個分。計画を知ったFFF仙台では計画中止の署名活動や自治体への申し入れなどを行い、地域住民の反対もあって現在この計画は止まっています。しかし、山を伐採して広大な敷地に太陽光パネルを敷き詰める同じような計画は各地で後を絶ちません。

「NO」と言うだけでは解決しない

「計画を止められても、『では山をどう管理していくの?』という根本的な問題は解決されません。気候変動が加速するなか、二酸化炭素の吸収源である森林を伐採から守ることは、地球温暖化に歯止めをかける前提条件。伐採が進めば気候変動で頻発している豪雨災害の被害が大きくなる可能性があります」
 それならNOを言うだけでなく、自分たちで森林の保全・再生をしてみよう─そう考えた鴫原さんたちが今年6月に立ち上げたのが「アグロフォレストリー・ラボ」です。
 このプロジェクトでは仙台市内で伐採の危機にあった東京ドーム約5個分の広さの山を購入し、森林の新しい保全・再生モデルをつくって全国に広めることを目指しています。<<<続きは本誌11.12月号で

アグロフォレストリー・ラボの活動のようす。立派な作物の栽培にも成功している(写真提供/鴫原氏)