お米が店頭から姿を消し、販売価格のニュースばかりが続くなか、知人のSNSに田んぼをやっているらしい写真が……。かつてマーケティング関連書籍の企画・編集・ライターとして忙しく飛び回っていた彼女が、いつの間にか、なぜかお米づくりに取り組んでいる。そのわけを聞きたくて、脱穀作業にお邪魔してきました。
文・写真/やまがなおこ

脱穀機はありがたい
「日曜日、雨になりそうなので、急遽明日土曜日に脱穀をやることになりました。来られますか?」そんな予定変更の連絡を受け、とある土曜日、神奈川県小田原市の山あいにある棚田に伺いました。
なだらかな山々はまだ紅葉シーズン手前。それでも、空は広く、刈り取られた田んぼの風情はうるわしく……、清々しい空気にまず深呼吸しました。「この棚田を借りられたのは、ラッキーだったよ。3段目の、真ん中と道路側が私たちの作ってる田んぼで、面積はどのくらいかなあ? 1アールくらいかな?」と藤宮さん。
刈り取ったあと稲架にかけて天日干ししていた稲束を、坂の上の地主さんの敷地まで運ぶのが最初の仕事です。農薬も化学肥料も使わない自然農をやっているだけに、いろんな草が生えていて、どこまでが畝なのかよくわかりません。不慣れな筆者はさっそく足を踏み外して転びかける始末。そのうち、本日参加の仲間2人もそろい、地主さんの眞壁家の脱穀機をお借りして、いよいよ作業が始まりました。
納屋から出してきた脱穀機を母屋との間に据え、作動ボタンで動き出した上下の歯の間に穂先を挟んでいきます。どんどん右に送り込まれて、稲束が右端に出てきます。手前にセットした袋には籾が、前方にはくず藁が出てきます。途切れさせないよう、稲束を運び、右端から送り出された稲束をよけ、ガタガタガタガタ……。
2時間半ほどで、あっという間に脱穀し終えることができました。実は、この日の田んぼ仲間に脱穀機を扱える人がおらず、協力者を探すもお天気の都合、それにメンバーと日程調整ができず、まずエンジンをかけるところから手探りでした。足踏み脱穀機で脱穀をした知り合いは1日がかりだったという話も出て、力を合わせて無事機械での脱穀が終わったのはなによりなのでした。
吹きだされたくず藁には、まだいっぱい籾米がついています。ミレーの絵画「落穂拾い」さながら、筆者がせっせと拾い集めていると、藤宮さんは「私も初めてのときはもったいないって思って拾ってたけど、残った藁はまた田んぼに戻して肥料になるから」、そんなに頑張らなくていいそうです。時間も限られているのでホドホドにしました。
最後に、脱穀機はそうじをしてパーツを折りたたみ、元あった納屋に納め、眞壁さんがいれてくれたお茶で小昼タイムです。ずっと見守ってくれていた先代のおばあちゃんもいっしょに談笑し、稲を実らせてくれたお天道さまとわき水、そして機械のありがたみを実感した半日となりました。

「多年草化する稲」に魅せられて
ところで、そもそもなぜ藤宮さんは田んぼを始めたんでしょうか。
「稲の多年草化栽培って聞いたことありますか?稲は一年草で、毎年田植えをして稲刈りをするものとふつうは思うよね。でも、稲はもともと雑草のようにとても強い植物で、稲刈り後に放っておいて越冬させるとまた株が育って収穫できるようになる。そんな多年草化という栽培方法を知って興味がわいて、多年草化を研究・普及する小川誠さんの研修を受けたことがきっかけなんだよね」
なんでも、稲を多年草化させると、田植えをせず肥料をやらずとも翌年も稲が育ち、水を絶やさないよう管理をするだけで収穫できるといいます。大型機械も資材もなしで、自然の力に任せる農法です。「研修生で世話をする『やってみ田んぼ』で米作りをやってみたら、1粒の米から育った苗が田んぼで穂を出し、何百もの米が実るって、ほんとうに感動したんだよね」
<<<続きは本誌1.2月号で





