絹や麻、ウールなど、貴重な天然繊維から、染め・織り・縫いと手をかけて作られた着物が、タンスや実家に眠っている。どうしたら?
「着物を日常着に。誰でも楽しく作れる」をモットーにリメイクを教えてくれるというアトリエを訪ねました。
文・写真/やまがなおこ

ドレスではなく日常着に
「シルクのドレスはしょっちゅうは着れないけど、着物を日常着にリメイクしたら、着ていて気持ちいいし、気分も上がります。それに、そういう服を着ていると、声をかけられることが多いんです。自分で作ったというと驚かれるし、賞賛されますよ」
ご自身も毎日、着物をリメイクした服を身につけているというデザイナーのまつながさやかさんは、リメイクする楽しさを、にこやかにこう話しました。
外房線の大原駅から田園風景のなかをバスで20分ほど(※)。いすみ鉄道国吉駅前の商店街にある木造平屋の建物が、その「ミシンアトリエ マチノイト」です。
元郵便局を改装した広いスペースに大きな作業台と工業用アイロン、たくさんのミシンが置かれ、学校の家庭科室に来たような、懐かしい気持ちになります。
ここで開かれる着物リメイクの教室は少人数制で、現在は火曜日午後の「基礎コース」と、水曜日午後の「ワークショップ」、そしてマンツーマンで教わる個人レッスンがあります。
取材の日は、何年も通っているという常連さんがそれぞれのペースで浴衣リメイクに取り組んでいました。
「家だと生地や道具を広げにくいし集中できないけど、ここは広い作業台があって、カット、アイロン、ミシンとどれもすぐ使えるようになっているでしょ。これまで、服を作ったことなんてなかったけど、やってみたら、自分で好きなものを作れるのがとても楽しいんです」と、石橋さん。
ワークショップで自作したアロハを着た福山さんは、「孫が作ってほしいというから」と、アトリエにたくさんある着物のなかからピンクの浴衣を選んで、2着目のアロハを製作中です。
交差点で信号待ちするたびに看板が気になって、通うようになったという松嵜さんは「着物をリメイクした服は動きやすいし、ほかの人と被らないところがいい」と、魅力を語ってくれました。



風を通したり洗ったりの手をかけられ、生まれ変わるのを待っている
着物、素材としての魅力
アトリエの壁際の棚には、地域の家庭などから譲られた400着以上もの着物が置かれています。
「はじめは、洋服の古着をリメイクの材料にしていたんです。でも洋服だと、ほどいても使えるところが少なかったり、ものによって形や大きさがバラバラですよね。着物は解くと四角い反物に戻るので、作り変えやすくて」とまつながさん。
幅約36センチ、長さは1着10メートルほどの着物地のどこをどう使うか、柄の生かし方を考えるのはパズルのよう。
寄贈される着物もみな違うから、選び方によって、同じデザインがまったく別のものに見えるのが魅力といいます。
「教室に来てくれた方が好きな着物で作ると、わたしのデザインが何通りにも見えるんです。生地、柄、体型も一人ひとり違うから少しずつ大きくしたり短くしたり。着方によってもまた見え方が変わります」。たくさんある着物から選んでリメイクに使ってよいシステムですが、ご自分で着物を持ってくる方も多いそうです。
せっかくの着物なので、なるべくロスが少ないほうがいいと、エリや見返しなどのパーツ以外は型紙はなく、全部直線です。
着物地そのままであれば、端ミシンや三つ折りなど端の始末をしなくていいので、その点でも着物はリメイクに適しているといいます。そもそも着物は染め直し、仕立て直して着継いできたものだから、合理的ですよね。
「着物はドレスにしたほうがいいんじゃないって言われたこともあったんです。でも、それだと着る頻度はあまり増えない。気に入ったものを頻繁に、そして長く着れるといいなと思って始めたので、着物リメイクが広がってきていることはとてもうれしいです。作った人自身が着て出かけてくださり、それを見た方がまた興味をもって、アトリエにきてくださいます」
一人ひとりにていねいに助言・指導してくれるワークショップは、空きを待つ人がいるほど盛況です。
日常的に着るとなるとお手入れ方法が気になりますが、「おしゃれ着用の中性洗剤で、洗濯機のデリケートコースで洗っています」とのこと。色落ちする場合もあるので、他の洗濯物とは分けて洗うといいそうです。
<<<続きは本誌9.10月号




