以前、仕事上の先輩が愛犬を見送ったあと、「もう犬が飼えないんだよね」とつぶやきました。動物保護団体には何歳以上の人には譲渡不可という年齢制限があり、かといってペットショップで子犬を買うのもはばかられると。飼い犬の平均寿命は小型犬で約15年。責任を持って飼い続けることは、容易ではありません。
 そんな、飼いたいけれど飼えない人が犬とふれあい、犬のいのちも守られ、犬を通じて地域につながりを作っているユニークな部活動が板橋区にあります。
文/やまがなおこ 写真提供/いたばし犬部

地域で犬を見守れたら

「保健所に収容された時点で、ワンちゃんにはもう名前がないんです。どんな飼い主さんになんて呼ばれて、どんなふうに飼われていたか、何もわからない。理不尽ですよね」
 看護師の泉泰代さんが、いたばし犬部を立ち上げたのは2021年10月のこと。長年、仕事のかたわら犬の保護活動に取り組むなかで、保健所に持ち込まれるよりも前に地域で飼い主さんと関われていたら、もっといい解決策が見つかったんじゃないかと考えたことがきっかけでした。日常生活のなかで犬を介して人と人がつながれたら……。経営する障害者グループホームで保護犬を引き取り、ホームの世話人をはじめ訪問看護スタッフや、地域のボランティアさんにも関わってもらう活動を始めたのです。
 犬部の〝部長〟として犬のお散歩をサポートする部員募集や活動紹介の発信をすると、関わりたいという人が集まりました。どんな人が参加しているのでしょうか。
「犬が好きだけど、住宅事情で飼えない、犬は飼ったことがないけど、関わってみたいという人が多いです。そして、愛犬をなくして寂しい、犬に関わりたいという人もけっこういらっしゃるんです」と泉さん。40代以上の女性が多く、最近は仕事をリタイアした男性の参加も増えてきているといいます。活動エリアは板橋区が中心ですが、ボランティアは近隣の市区や、ちょっと離れた地域などから参加する人もいるそうです。
 犬も一匹一匹性格がちがい、何を怖がるのか、逃げてしまわないか、お散歩コースはどこがいいか等をまずは把握する必要があります。犬部では、これまでの経験をふまえ、犬の性質を見きわめながら、お散歩ボランティア体験会を開いて、活動に参加してもらっています。

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犬がいることの大きさ

子どものころから犬を飼い、家族がケンカをしたら取り持つような行動を取ったり、落ち込んでいたら寄り添ってくれたり、犬の素直さ、人に対する信頼を知っていた泉さん。犬部を始めてみると、犬という生きものの魅力に改めて驚くといいます。
「ボランティアに来るうちに、ワンちゃんに会いたいと引きこもりだった人が外に出るようになったり、知的障害・精神障害のあるグループホーム利用者さんと顔を合わせるうちにボランティアさんの障害者への理解が深まったり。犬は人の力を引き出してくれるんです」
<<<続きは本誌11.12月号で