すぎやま・かなよ
1967年静岡県生まれ。東京学芸大学初等美術科卒業。1990年代から創作活動を始め、『山に木を植えました』(講談社)、『本はともだち』(子どもの未来社)など著書多数。『手で見る学習絵本 テルミ』(小学館)編集長、シャンティ国際ボランティア会でミャンマーの児童書人材育成など多くの支援活動に関わるほか、小学校や図書館と連携したワークショップにも精力的に取り組む。

ユニークな発想と可愛いイラストで、魅力あふれる絵本を次々と生み出しているスギヤマさん。最新作『いち にの さん!』は、“9つの言葉”を一冊にした多言語の赤ちゃん絵本です。ページの先に広がる“カナヨの世界”を覗いてみませんか? 聞き手・構成/濵田研吾 写真/堂本ひまり
〝9つの言葉〟の赤ちゃん絵本
─デビュー作『ノーダリニッチ島 K・スギャーマ博士の動物図鑑』(絵本館、1991年)は、ある島で暮らす架空の動物の図鑑です。登場する100の動物たちは、誰も排除しないし、争いごともない。期せずして多様性の物語になっています。
小さいころから動物や生きものの図鑑が好きで、島を冒険する「K・スギャーマ博士」の目線で描きました。それぞれの動物の個性を掘り下げていくと、「この子とこの子は、よく喧嘩をする」「支え合っている」みたいに自然と物語が動き出す。
島という限られた空間で平和にやっていくには、嫌な相手を攻撃するのではなく、うまいこと距離を保つこと。職場でも、学校でも気の合わない人はいるじゃないですか。そういう処世術、人間社会でも必要ですよね。
─最新作『いち にの さん!』(童心社、2025年)も多様性に富んだ絵本で、〝9つの言葉〟(日本語、中国語、ベトナム語、韓国語、フィリピノ語、ポルトガル語、英語、ネパール語、スペイン語)が入っています。
「読者バリアフリーやインクルーシブ(社会的包摂)が大事」と言われながらも、取り残されている人たちがいます。日本で暮らす外国の人たちもそうで、親しい編集者と長年、多言語絵本の企画をあたためてきました。ただ、使う言語が増えると文字ばかりになるので、シンプルなデザインの赤ちゃん絵本にしました。
訳者さんは、日本語のオノマトペ(※1)に苦労したそうです。たとえば、赤ちゃんや子どもを抱きしめる「ぎゅっ!」という言葉は、訳がむずかしい。英語の訳者さんは、「わが子を抱きしめるときの言葉にしたい」と「Big hug!」と訳してくれました。それぞれの訳者さんが愛情を込めて、血の通った翻訳をしてくれた。それが本当にうれしくて。
─絵本の巻末にはカタカナで書いた読み方のページがあり、童心社のWebサイトでは音声で聞くこともできます。
「今日はベトナムの○○くんのお母さんがいるから、ベトナム語で読もう!」みたいに、図書館や保育園、地域コミュニティで、コミュニケーションや場づくりのツールとして活用してほしいんです。自分の母語を大切にしてくれる人がそばにいれば、安心できるはず。言葉って、そういうものですよね。
『ほんとうにだいじょうぶ?』(寺田真弓著、森のくじら絵、物語のアトリエ、2024年)という素敵な物語絵本があるんです。誰でも安心して旅に出ることを願ったもので、5つの言葉(日本語、中国語、韓国語、英語、ポルトガル語)が入っています。
「だいじょうぶ?」と不安になっても、「だいじょうぶ!」と誰かが言えば、最初の一歩が踏み出せる。『いち にの さん!』とリズム感が似てるでしょ? 「だいじょうぶ?」がいち、「だいじょうぶかも」がに、「だいじょうぶ!」がさん。こうした気持ちの変化は、言語は違っても同じだと思います。

本のチカラを引き出す仲間
─点字つき絵本や手話絵本など、障害や特性があっても読める絵本づくりに、積極的に取り組んでいらっしゃいます。
2019年から編集長として『手で見る学習絵本 テルミ』(※2)に関わったのが、その大きなきっかけです。同じ年にろう者の団体とつながり、手話の勉強も始めました。
小学校でワークショップをするとき、耳の不自由な子がいるとします。少しでも手話ができれば、その子が手話を使わなくても、「あなたとコミュニケーションしたい」という気持ちは伝わるのではないかと。
─動画サイトYouTubeでは、『いち にの さん!』の手話バージョンが公開され、スギヤマさんも出演されていますね。
「字と絵が見えるから」との理由で、ろう者のことを考えて作られた絵本は少ないんです。「見えるから読める」と思いがちですが、生まれてから一度も日本語を聞いたことがないろう者には、外国語も同然。
日本語を取得するには労力を要します。字幕ではなく手話を希望するのは、第一言語だからです。絵本を手話で読み語りするときは、原文のままではなく、「視覚としての言語」を意識します。「びろーん! のびた!」なら、どの部分がどのようにのびたのか表現するんです。<<<続きは本誌1・2月号で





