アートは一人ひとりの存在を肯定するためのツールなんです(特集:アートであそぼう)

「アートは一人ひとりの存在を肯定するためのツールなんです」
クリエイティブサポートレッツ代表 久保田翠さん
小レッツ久保田さんP14_15_DSC_9449

存在を全肯定する

「たけし文化センター」や「表現未満、」「タイムトラベル100時間ツアー」など、
一風変わったネーミングの活動を行うクリエイティブサポートレッツ。
すべての根底にあるのはソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)です。
「重度障害のある私の息子・久保田たけしは物心がついたときから
石を容器に入れて叩き続けるという行為をやり続けています。
特別支援学校に通った12年間、先生がたは熱心に指導してくださったのですが、
結局息子は食事もトイレも身辺自立はひとつもできないまま高校を卒業しました。
『いくら頑張ってもできない人がいる』ということを、私は息子を通して知りました。
そして彼の存在を全面的に肯定するために、それまでの自分の価値観を変える必要があった。
一般社会では『障害』や『問題行動』と言われる彼のありのままを
『表現』として捉えなおし、スタートしたのがたけし文化センターです」

「表現未満、」の可能性

 今、障害のある人のアートは、「アール・ブリュット」や「エイブル・アート」として
各地で展覧会が開催されるなど注目を集めています。
多くの事業所でも作品の制作が行われていますが、
アルス・ノヴァ(扌6ページ)では作品づくりに価値を置いていません。
「作品が評価されたり、お金を稼げるようになったりすることを
否定するつもりはありませんが、必ずしも本人が望んでいるのかどうかは分からない場合も多くあります。
かつて『オガ台車』というもので注目を集めたおがたさんというメンバーがいます。
彼はいろいろな場面でかたまる(動かなくなる)人で、
特に好きな家電量販店では閉店を過ぎても居座り続けて出入り禁止になるなど、
スタッフは困り果てていました。
するとあるスタッフが『おがちゃんの欲望をすべて叶える!』と、
中古の電化製品を大量に買い込み、思う存分いじらせた。
子どもが好きなおがたさんは、その家電を持って近くの小学校に散歩に行くようになります。
最初はラジカセ程度だったものが、そのうち台車に積むという方法を発見し、
テレビや楽器、冷蔵庫などを際限なく積み上げ、
ガムテープとビニールテープでぐるぐる巻きにしたものをひいて、
それが『オガ台車』として注目され、遠方からも人が会いに来るようになりました。
 しかし、彼にとって台車はコミュニケーションのツールであって、
それ自体には興味があったわけではないのです。
オガ台車は結果的に出てきた排泄物のようなもので、
欲望が満たされたとき、彼は見事に台車づくりを止めました

 
ここで見せてもらったのは一本の映像。
メンバーのこうすけさんが台風の豪雨のなかでびしょ濡れになって遊ぶようすを、
スタッフがビデオで撮影したものです。
それはまるで雨の中でダンスをしているような、美しい映像でした。
「こうすけさんは水浴びが大好きで、夏でも冬でも水浴びをする人です。
水へのこだわりは福祉的には問題行動とされ、
取り除かなければならないものとされています。
しかしレッツでは、硬直する問題行動をどうやって引き取るか、
想像力をたくましくして考えていきます。
結局、着替えを多く用意することで折り合いをつけ、水浴びは今も続いています。
私たちには問題と感じられても、本人にとってはまったく問題ではないからです。
水を問題行動と決めつけると、こうすけさんの本当の姿は見えてこない。
水浴びの行為はやはり彼にとっての表現で、一般的な表現行為とは異なりますが、
私たちはこれを『表現未満、』とすることで、

対話や想像力が生まれるきっかけとしているんです」

違和感も社会とつないでいく

 その人の欲望や行為と、周りの人がどのように折り合いをつけるか。
そのプロセスがアート的であり、それを社会に開いていくことが
レッツの活動だと久保田さんは話します。
「石を容器に入れて叩き続ける、水浴びをする、ゆっくり歩く…。
彼らが大切にしているものに価値を見いだしていかないと、
その人を全否定することにつながってしまいます。
彼らの行為は存在することとイコールだと思うんです。
問題行動だと捉えてしまう私たちの価値観を変えたり、
ひっくり返したり、さらに社会と接続させていくのがアートだと考えています。
観光(タイムトラベル100時間ツアー)も同じで、彼らと接してもらうことで、
違和感とか居心地の悪さがあったとしても、それを含めて体感してもらう。
そこから『あなた』が考え始めてほしいのです」
小レッツ石拾い中P06_09_DSC_9632

くぼた・みどり
東京芸術大学美術学部大学院環境デザイン科修了。
障害のある長男の出産を機に、エイブルアートに出会う。
建築士として働きながら、2000年クリエイティブサポートレッツ設立。現
在は障害福祉サービス事業所アルス・ノヴァ、
誰もが自由に利用できる居場所「のヴぁ公民館」を拠点に、
ソーシャルインクルージョンをめざし多様な活動を展開。

認定NPO法人 クリエイティブサポートレッツ
http://cslets.net/
たけし文化センター連尺町 
〒430-0939 静岡県浜松市中区連尺町314-30
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撮影/編集部

この記事は、9月号特集でご紹介しています。

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